一方的に持つ過剰な期待が産みだす医師への不信

.29 2013 脊椎疾患 comment(9) trackback(0)
最近、L5/S1の椎間孔狭窄が進み、L5神経根障害が高度になってから私の手術を受けられた患者が、本人の満足できるレベルにまで改善しなかったことに不満を露わにして、こんなことなら手術を受けるのではなかったと吐き捨てた。手術前は良くなると言ったではないか、これでは良くなったとは言えないというのが言い分です。

私はこの患者の感情露わな姿に接しながら、なんと報われない手術をやったものだと自嘲しました。この患者は、術前には足関節の背屈力が強く低下しており、L5神経根領域の知覚障害も進んでいました。手術をしなければ下垂足といって足先がだらーんと下がってしまい、歩くと足先が床に引っかかり歩きにくくなる一歩手前の状態でした。このような患者に神経機能が元通りに戻りますとは言うはずもないし、言ってはいないのです。しかし、本人はそう理解、いやそう信じたかったのだろうと思います。患者心理として無理はないと理解はできるのです。術後は足関節の背屈力は一定の改善を示し、下肢の痛みも全体としては、その範囲は狭くなり、軽減しているのですが、本人は術前の正確な障害状態を覚えていないのです。私は術前に人体図にその時の痛みやしびれの部位と範囲を色分けして患者本人に塗ってもらいます。定期的チェックする際に人体図を書いてもらうのですが、その図の上では明らかに痛みやしびれの範囲はL5神経根領域に狭くなってきているのです。それを見せても、「そうでした」とはなりませんでした。

患者は足に痛みを強く感じるため、その他の改善した部分は全く認めようとしません。実は、このような患者は希ではありません。つまり、良くなった部分は当たり前のごとく受けとめ、後に残った症状に不満を言い、こだわり続けるのです。まるで、良くならないのはお前の責任であるかのように。

 私は改めてこの患者に次のように説明しました。「貴方の神経障害は回復しきれないところまで進んでいたので、椎間孔を広げ、神経根の圧迫を取り除いても、神経機能の改善が充分なものにならなかったのです。私ら外科医にできることは神経根の圧迫状態を解消し、神経根の障害が進むことを防止することと神経根の回復力を引き出してあげることで、神経そのものを治すことができるわけではないのです。私らは魔法使いではないのです。
貴方は手術を受けられた時点で既に後遺症として残る症状が決まっていたのです。それを事前に予測する手段がないのです。だからこそ、良くなる回復に期待をかけて、最善を尽くすほかないのです」。

 この患者は納得していない様子でした。薬も飲むつもりはないと拒否しました。そして、帰り際に「他の医師はゴルフができるようになる」と言ったのにと最後に捨て台詞を残して、外来をでていきました。
実は、手術をすれば、治って当たり前と思い込んでいる患者がいます。そのような患者は
常に残った問題に不平不満を言い続けます。そのために、なかなか手術をしない[慎重な]外科医がでてくるのではないでしょうか。

 脊髄や神経は障害が進むと、後遺症が残るのは当然と一般の理解が進むことが必要です。そうなれば、過剰な期待をもち、医師に不当な物言いをする患者が減るのではと期待するのですが、皆が理性的に問題を処理できるわけでもなく、無理なことであろうと諦める気持ちも起こるのです。しかし、私ら外科医は治療の最後の砦として瀕死の腰椎患者に手をさしのべなくてはならない立場、宿命にあると受けとめているのです。


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ゆうき
はじめまして。
ご相談です。5月に頚椎後方固定手術を受け約一月半(第4,5,6,頚椎)
左手指先の痺れは和らいだのですが、術前になかった右手甲の違和感(シートを1枚貼ったような麻痺のような感覚)左手甲も同じ
右足裏側、甲も同じ
MRIでは、未だに4番が神経に突起してるように私には見えましたが、先生は今から良くなるばかりだと言います。
ひどくなってる気がして毎日が憂鬱てたまりません。
私のこの手術は失敗例なんでしょうか!?
2013.06.14 14:42
chobiko
はじめまして。
6月7日にヘルニアの手術をしました。手術をして1週間あまりたちましたが、右足の甲しびれと踵、脹ら脛、尾骶骨の痛みが残ってしまっていたので、不安になって色々調べていたらサイトを見つけました。
過去の記事から読ませて頂いて大変勉強になりました。
記事を読むに連れて少し不安がとれたように思います。
これからも頑張って下さい!
2013.06.15 20:58
drshujisato
応援ありがとう。
できるだけ、患者さんの腰椎疾患の治療に関する不安や疑問の
解決に役だつように書いているつもりです。
これからも患者さんと医師の間に生じやすい問題や誤解の解消のためにも
私の経験を伝えていきますので、宜しく。
2013.06.15 22:59
drshujisato
5月の手術というと術後まだ1ヵ月余りですので、結論を出すのは早いです。
脊髄や神経根の症状改善には3~6ヵ月は見なくてはなりません。
もう少し、気長に経過をみてから、手術の結果を評価されることです。
今の段階で失敗とは言えないと思いますよ。

佐藤秀次
2013.06.15 23:05
ゆうき
先生ありがとうございました。励みになります。もう1つ質問よろしいでしょうか?
昨日から、首の動きも悪く、取れていた痛みもまたでてきて…寝ているときに解らず変な寝返りしたのか、起きてからずっと痛いです。人工骨が3本入ってますがずれたり、取れたり折れたりすることはあるのでしょうか?痛みの場所は肩というより、頭に近いまん中のところです。よろしくお願いいたします。
2013.06.16 20:38
drshujisato
手術の具体的な方法がわからないので正確には言えませんが、
寝ている状態で、そんな簡単には外れたりすることはないと思いますよ。
術後の痛みは強弱の波があるのが普通です。
もし、痛みが強く、持続するなら担当医に相談なさることですね。

佐藤秀次
2013.06.16 22:28
ゆうき
お返事ありがとうございましたm(__)m
2013.06.17 06:21
かん
魔法使いではないとか、言わなかったとか…

術前に、どこまで回復する(可能性がある)、それ以上回復はしない(回復する可能性は見込めない)と言っておけば良かっただけでは?

お医者さんにとって手術は日常でも、患者にとっては日常ではないし…
お忙しいとは思いますが、1人1人の患者さんとコミュニケーションをしっかり取れればお互いにツラい思いをしないで済んだのではないでしょうか?
2013.06.27 03:14
drshujisato
勿論、回復の見込みは予想がつきますので、術前には説明するんですよ。それでも残る障害を受け入れることのできない患者が一部おります。夢のような話だけをして手術を行うわけはないのです。他のスタッフもリハビリの励ましのため目標をもってがんばるよう言葉かけをします。例えば、ゴルフが好きな人にはゴルフができるようになるよう頑張ろうなとどとね。それは機能障害をもった患者を励ましてリハビリに向かわせるためにそうするのです。障害はなかなか受け入れにくいものです。私は多数のそのような患者を診てきましたので、そのことは良く理解できます。しかし、病気が残した満足できない結果のすべての責任が治療者側にあると決めつける態度と物言いは残念としか言いようがありません。医療は受ける側と提供する側の双方が真摯に向き合わなければなりませM。
2013.07.01 00:14

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