私は脊椎外科医として、「腰椎変性疾患の真理と全体像」を知ることに私の全エネルギーを費やしてきたと言っても過言でありません。健康に何不自由なく生活していた人々が「ある時点」から腰や下肢の痛みやしびれに悩まされ始め、生活の質が損なわれていく。「ある時点」とは、それは人によってぎっくり腰であったり、椅子に長くすわっているとじわっと強くなってくる腰痛であったり、歩いていると始まる下肢の突っ張り感や痛み、しびれであったりと様々です。しかし、多くは始めからその人の生活を強く損なうわけではなく、だましだまし付き合える程度のものが多いようです。この時期には、無理をしてでもやるべきことはやっていますので、本人が訴えない限り周囲が気づくことはありません。仮に話したとしても、年齢(とし)の性と一笑されるのが落ちでしょう。それほど、腰椎変性疾患の初期は病気としての特徴や深刻さに欠けるため、ありふれた老いの徴候としてしか受けとめられていないのが普通です。
このような腰椎変性疾患を人の成長と老化の全課程の中でどう理解し、どう対処すべきかは長く私が抱いてきた脊椎外科医としての研究テーマです。これまで、私は小学生の子供から90歳を越える超高齢者まで、多数の腰椎変性疾患の治療を経験し、「腰椎変性疾患の真理と人生を通した全体像」を見てきました。次回から、その結果を皆さんに不定期ですが連載で紹介したいと考えています。腰椎変性疾患は様々な原因が重なり合ういわば大きな森のような存在です。従って、森をなす木の一本一本の姿を知ることこそが森の全体すなわち真理を知ることに繋がるはずです。第1回の予定は、腰椎変性疾患の中でも若い人に多い「椎間板ヘルニアの真理」についてです。