「腰椎手術は成功、しかし患者は良くならず」の矛盾、あなたは納得できますか?

.06 2018 脊椎疾患 comment(18) trackback(0)
ブログ相談室には、表現に違いはありますが、この種の矛盾を指摘する声が多く寄せられます。そのため、これに関する私の意見を述べたいと思います。そもそも患者の症状の原因として腰椎変性疾患を疑い手術を行う医師は、患者の症状がよくなることを期待して手術を行うはずです。どこを手術すれば患者の症状は良くなるのか、医師は各種の検査で症状の原因を突き止め、そこに手術を行うはずです。従って、原因診断が正しく、手術が適切なら、患者の症状は良くなるはずです。もし良くならなければ、その原因は次の二つのいずれかです。一つは原因の診断ミス、もう一つは不完全手術です。このことから、手術は適切で問題ないと主張するなら、良くならない原因は診断の誤りにあるはずです。ところが、腰椎手術は成功と主張する医師は自身が下した診断が適切であったかどうかには言及しない傾向が見られます。しかし、「診断に誤りはなかった」と自信をもって主張できるほど、腰椎変性疾患の診断はそれほど簡単ではありません。私は、手術に問題はなさそうだが、明らかに診断ミスのため症状の改善に失敗したと判断される患者の再手術を多く手がけてきました。この経験から、「手術は成功、良くならないのは患者に原因がある」の言葉は、余程の根拠・確信が医師にない限り、軽々しく口にすべきでないというのが私の意見です。そのような医師の対応によって、精神を病んでいく患者が少なくありません。
*腰椎変性疾患とは、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、変性すべり症、分離すべり症、腰椎症などを指します。

腰椎椎間板ヘルニアの真理  (1)症状編:(8)椎間板ヘルニアによる神経症状の進み方

.15 2018 腰椎椎間板ヘルニア comment(11) trackback(0)
(8)椎間板ヘルニアによる神経症状の進み方

椎間板ヘルニアのみならず、腰椎変性疾患が神経障害を起こす際には、神経根単独、馬尾単独、さらに「神経根+馬尾」混合の基本的に三つの型があります。各型によって神経症状の現れ方と、進み方は異なります。ヘルニアが好発するL4/5を例に説明します。

(a)神経根単独の症状の現れ方と進み方
 L4/5の脊柱管内で障害される神経根はL5神経根であり、ヘルニアのタイプとしては後外側型が該当します。ヘルニアによるL5神経根症状は痛みが強いのが特徴であり、始めは臀部、次いで大腿(外側・後部)、下腿(外側・後部)、そして足(背・底)の順に進むのが一般的です。

ヘルニア初期の炎症期には、腰痛や坐骨神経痛が目立ち、炎症消退期になると痛みは下腿外側部や足背・足底に強くなります。このように神経根障害による症状は、慢性期に至ると神経根の支配領域に強く表れます。言い換えるなら、神経根の支配領域に強い痛みやしびれ、さらに支配筋に筋力低下が起こっているなら、ある程度の神経根障害が起こっていると理解すべきです。だからといって直ぐに手術が必要というわけではありません。なぜなら、先にも説明したようにヘルニアは自然消失することが多いからです。神経根障害が軽い場合には、ヘルニアの消失によって最終的に神経症状は回復します。問題なのは、神経根障害の進み方が早い場合です。このような場合はヘルニアの消失を待つ余裕はないので、早期の手術が必要になります。ところが実際の臨床では、手術のタイミングを計る客観的な基準がないので混乱が生じています。ここでは外科医の経験的な判断が生きると言って良いでしょう

(b)馬尾症状の現れ方と進み方
脊柱管狭窄症では純粋な馬尾症候を呈する患者が多いですが、椎間板ヘルニアでは稀と言ってよいでしょう。なぜなら、馬尾症候を出すほどのヘルニアは通常かなり大きな、巨大ヘルニアと呼ばれるヘルニアであることが多く、馬尾のみならず神経根も同時に障害されるからです。つまり、椎間板ヘルニアでは「神経根+馬尾」症候を呈する患者が多いのです。馬尾症候は文字通り、脊柱管の硬膜内で馬尾がヘルニアによって圧迫・絞扼されて発現します。通常はヘルニア高位レベル以下の両側性の神経症候となり、中心部まで障害されると排尿・排便障害が発現します。例えばL4/5では、L5神経根と馬尾が両側で障害され、(a)のL5神経根症状と併せて、両側の臀部から大腿・下腿後部、足背足底に至るびりびりしたしびれ感が発現します。この場合のしびれは足底から上行し、会陰部に至りますが、巨大ヘルニアでは急速に殆ど同時に馬尾全体が障害されます。このタイプのヘルニアでは、自然治癒を待つ余裕がないので通常は早期手術、特に膀胱直腸障害が発現した場合には緊急手術としての対応が必要になります。

次回は、(9)椎間板へルニアによる自律神経症状とは?について説明します。

腰椎椎間板ヘルニアの真理 (I)症状編:(7)椎間板ヘルニアによる痛みの経時的変化

.11 2018 脊椎疾患 comment(0) trackback(0)

(7)椎間板ヘルニアによる痛みの経時的変化

椎間板ヘルニアは急に腰痛などの痛みを起こす疾患として知られています。しかし、急にといっても突然と言うほど速やかではありません。腰にぎくっとした違和感を自覚してから、数時間以上経て腰痛や臀部痛などが発現し増強します。これは椎間板が靱帯を破り、そこに炎症が進むことで発現する痛みだからです。すなわちタイムラグがあります。

もし、靱帯のみの炎症であるなら、腰痛のみで、いわゆるぎっくり腰となります。一方、靱帯を破り脱出したヘルニアが神経根にまで影響を及ぼすと神経根嚢炎となり、臀部や鼠径部、下肢へと痛みが広がります。

炎症は、それを持続させる原因となる腰に負荷を加える仕事や運動を行わない限り、発症後1週間を過ぎる頃から軽減するので、これと連動して痛みは軽減します。さらに、ヘルニアの多くはマクロファージと呼ばれる白血球によって吸収され縮小・消失するので、通常、痛みは発症後1ヵ月頃には消失します。しかし、ヘルニアが消失しない場合には、痛みは慢性化します。慢性化とは3ヵ月以上痛みが続く状態です。

激痛でないにせよ、痛みが慢性化する患者では、私は手術を勧めます。なぜなら、痛みをもった生活は腰をかばう姿勢をとるため、腰の側彎変形や別のヘルニアを起こすことがあり、さらに腰椎症性変化を増強し脊柱管や椎間孔の狭窄病変を進めるからです。しかし、なによりも慢性痛を避けたいのは、慢性痛は患者を鬱(うつ)にし、生活の質の低下を招くからです。

次は(8)椎間板ヘルニアによる神経症状の進み方、について説明します。


腰椎椎間板ヘルニアの真理  (1)症状編: (6)激痛を起こす椎間板ヘルニアの特徴

.09 2018 腰椎椎間板ヘルニア comment(0) trackback(0)
(6)激痛を起こす椎間板ヘルニアの特徴
 
 ヘルニアによる痛みは腰であれ下肢であれ、本来痛みのない部位に起こる痛みですので、患者にとっては、それぞれの程度において辛いものになることは言うまでもありません。ここで言う激痛とは、VASで表すところの10か、それに近い痛みを指します。この場合、患者は通常、ベッド上で身動きできない痛みに顔を歪め苦しみます。排泄もベッド上で介助を受けて済まさざるを得なく、患者にとっては、まさに生き地獄です。この筆舌に尽くしがたい辛い、絶望的な痛みが毎日、終日続くわけですから、患者は精も根も尽き果てて、闘病への気力さえ失せてしまいます。「この痛みが治らないなら、死んだほうがましだ。」
患者の口をつく、この絶望的な呻き声を私は何度も耳にしてきました。椎間板ヘルニアが患者にもたらす激痛とは、このように悲惨なものであることを先ず知ってもらったうえで、次にこのような激痛を引き起こす椎間板ヘルニアの特徴について説明します。

 私の経験から、激痛を起こす代表格は外側型と超外側型(最外側型と言うこともあります)ヘルニアです。外側型とは椎間孔内に発生するヘルニアであり、超外側型とは椎間孔外に生じるヘルニアです。これらの部位のヘルニアがなぜ激痛を来すのか?
その理由は、外側型では椎間孔という狭い骨性構造の中で神経根がヘルニアによって強く圧迫されるためであり、また超外側型では椎間孔外に存在する後根神経節と呼ばれる痛みに非常に敏感な部位がヘルニアによって直接圧迫刺激されるためです。勿論、これらの部位のへルニアがすべて激痛というわけではありませんが、激痛になる可能性が高いと理解しておくことが重要です。さらに痛みが強い他、下肢のしびれや感覚障害、運動麻痺も進みやすいので注意が必要です。しかし、ここで一つ深刻な問題があります。それはこれら重症化しやすいヘルニアの診断が必ずしも適切に行われていない現状があることです。原因不明とされてしまう場合も少なくありません。これら外側型と超外側型を含むヘルニアの診断法については、後日、診断編で説明する予定です。

 一方、脊柱管内で中心型ヘルニアによって馬尾が障害される場合には、通常、神経根で見られるような激痛になることはなく、びりびり、ぴりぴりなどの不快な感覚障害になります。また、脊柱管内の後外側型ヘルニアで神経根が直接圧迫刺激される場合には、外側型で見られるような神経根性の激痛になります。特に神経根を直撃するヘルニアでは痛みが強いうえに下肢の感覚障害や麻痺も起こりやすいことを理解しておくことが必要です。

次回は(7)ヘルニアによる痛みの経時的な変化、について説明します。


腰椎椎間板ヘルニアの真理  (I)症状編 : (5) ヘルニアの重症度とは?

.08 2018 脊椎疾患 comment(0) trackback(0)
5)ヘルニアの重症度とは?
  ヘルニア重症度の評価は何をもって行うべきか。あくまでも私見ですが、私はヘルニアの大きさではなく、「痛みの程度」と「神経障害の程度」から総合的に行うべきと考えています。

腰痛や坐骨神経痛、鼠径部付近の痛みなどは、主観的なものですので、それらの程度を他と比較することに余り意味はありません。なぜなら、痛みに弱い患者の方がじっと痛みに耐える患者と較べて、より重症との印象を与えるからです。しかし、患者がどの程度の痛みとして自覚しているのか、さらに術前後で痛みの程度はどう変化したのかを知る手段として、広くVASが用いられており、私も重宝しています。

ヘルニアによる激痛は拷問のように容赦なく患者を苦しめます。従って、強い痛みは患者側に立てば最も重症感の強い症状になります。なぜなら、激痛は患者の意識の中で足のしびれや麻痺、排尿障害などを凌駕する肉体的苦痛だからです。

一方、神経障害は下肢の痛みやしびれ、知覚障害、筋力低下(麻痺)や排尿・排便障害などを起こします。ヘルニアによる神経障害の症状は、障害された神経根や馬尾の支配領域に発現します。例えばL5神経根であれば、下腿外側から足背・足底(母趾側)に知覚障害としての痛み・しびれが発現し、さらに母趾や足関節の背屈力低下が起こります。さらに自律神経障害として足の冷感や浮腫、色調変化なども起こることがあります。これら神経障害の程度は患者個々に様々であり、厳密に言うなら、誰一人として同じではないと言って良いでしょう。

私がへルニアの重症度を問題にする最大の理由は、後遺障害と関係するからに外なりません。神経障害は一旦進行すると後戻りがきかなくなります。これを「神経障害の非可逆性」と呼びます。重症度の高い患者ほど、短期間で神経障害は非可逆的になります。その結果、神経障害性疼痛や下垂足などの運動機能障害、排尿排便障害などが後遺することになります。ヘルニアによる神経後遺症は神経障害が可逆的な時期(神経機能障害が完全に回復するgolden stage)に手術を行うことで防止できるはずです。私はこの考えに基づいて治療することが重要と考えてきました。これはヘルニアの重症度の評価抜きにはなしえないのです。重症度評価やgolden stageについては、手術治療編でも取り上げる予定です。
次回は、(6)激痛を起こす椎間板ヘルニアの特徴、を予定しています。