1) 連れ添いの死や家族の死に打ちひしがれて、家に籠もっていて呆けが進んだ。最近は、長くかわいがっていたペットの死がきっかけになることもあります。
2) 定年退職後、悠々自適の生活をしていて呆けが進んだ。特に、仕事人間、専門職で他に趣味や人付き合いのない人に多い傾向があります。
3) 長く住み慣れた土地を離れて、子供と知らぬ土地で同居し、近所つきあいもなく、孤独な生活状態におかれていて呆けが進んだ。
4) 長い入院治療で病気はよくなったが、退院してきたら呆けていた。
5) 独居生活で気ままに暮らしているうちに呆けが進んだ。
6) 世話やきと世話される関係にある高齢者夫婦では、世話されている方が呆けやすい。
7) アルコールに依存した生活。
などなど
その他にも色々と呆ける要因はありますが、共通しているのは、喪失感、孤独感、無気力、絶望感、悲哀、うつ気分などをもたらす生活環境要因と言えます。
高齢者認知症の発症メカニズムはまだ解明されていませんが、私は高齢者の認知症に深く関わる要因は「廃用」と考えています。頭を使わない、身体を動かさない、この使わない・動かないことから進む脳や身体の機能衰退が脳の活動・活性を進行性に低下させていき、次第に脳の器質的変化を進めていき、回復不能になるのではと推測しています。
高血圧や糖尿病、メタボリックシンドロームなどによる脳血管障害も認知機能障害の原因として重要ですが、性格とライフ・スタイル、生活環境なども高齢者の認知症発症に深く関わっていると思われます。
それでは、高齢者の認知症発症をどのようにして防いでいけるのかについては、次に説明しましょう。
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「もの忘れ」専門外来は予約制を取っており、医療秘書(本院では医師事務作業補助者とは呼ばず、医療秘書と呼んでいます)が予約受付をしています。多くは、家族からの申し込みであり、たまには本人自身からのことがあります。家族からは、もの忘れ外来というと本人が拒否するので、本人には脳の検診ということで話を合わせて欲しいという希望が少なくありません。
受診の際には必ず一番良く本人の生活状況を知る家族に同伴してもらっています。家族からの情報が診断の鍵を握るからです。
先ず、最初に行うのが問診表へのチェックです。患者本人と家族にそれぞれチェックしてもらいます。次に問診表の内容を紹介します。
1) 同じ事を何度も言ったり聞いたりする。
2) 置き忘れ、しまい忘れが目立つ。
3) 蛇口やガス栓の締め忘れが目立つ。
4) なべ・やかんを焦がすことが多くなった。
5) 財布や物品を盗まれたという。
6) 薬の管理ができなくなった。(飲み忘れ、余計に飲むなど)
7) 一度に二つのことが覚えられなくなった(台所からソースと醤油を持ってこられないなど)
8) 物の名前がでてこなくなった(あれ、これ、それなどと言う)
9) 時間や場所の感覚が不確かになった。
10) 慣れているところで通に迷った。
11) テレビドラマの筋が理解できない。
12) 買い物でお釣りなどの計算に間違いが多くなった。
13)家電製品(テレビのリモコンなど)が使えなくなった。
14) 趣味や日課で出来なくなった。
15) 簡単な家事もできなくなった。
16) 気分が沈む、落ち込む、ふさぎ込むようになった。
17) 悲哀感、寂しさを訴えるようになった。
18) 自責感や死にたいなどと訴えるようになった。
19) 落ち着かず動き回る時とぼんやりしている時がある。
20) 気分が不安定で、急にそわそわしたり、イライラしたり、怒りっぽくなったりする。
21) 幻覚がある。
22) 夜間に不眠で、日中ぼんやりしている。
認知症の患者では、家族のチェック項目が多いのに対して、患者本人のチェック項目は少ないのが普通です。これは、病識欠如といって自分自身に起こっている病的現象に対する自覚の欠如を表しています。16)~20)は認知症や鬱病などでみられる気分障害をチェックする項目です。鬱病の患者とアルツハイマー型認知症の患者の鑑別が必要になることが少なくありません。なぜなら、鬱病の患者はもの忘れや認知機能の低下を示すことが多く、アルツハイマー型認知症の患者は早期には鬱症状を訴えることが少なくないからです。鬱病の患者では抗鬱剤の治療で症状は改善しますが、アルツハイマー型認知症の患者では認知症治療薬が効果を示します。
問診表チェックに続いて、長谷川式認知症診断テストを行います。このテストは簡易的なテストとして良く用いられていますので、詳細は割愛します。
最後にMRI検査によって、脳萎縮の分布や程度、脳梗塞や脳腫瘍、水頭症の有無などをチェックします。同時に海馬傍回の萎縮の有無や程度を評価するVSRADを行います。VSRADはアルツハイマー型認知症早期に出現する海馬傍回の萎縮の程度を半定量的に表示する方法です。
以上、アルツハイマー型認知症は問診と長谷川式テスト、MRI、VSRADなどの結果を総合して判定します。認知症判定で重要なことは、長谷川式テストでほぼ満点近くでも、MRIやVSRADでアルツハイマー型認知症の疑いの強い海馬傍回を含む脳萎縮の存在を認める場合には、半年後に再検して、認知機能のさらなる低下がないか再検査することです。その疑いを持たせる経過の場合にはできるだけ早く薬物治療を開始し、定期的に経過を追跡することが重要です。未だ、臨床的にはアルツハイマー型認知症初期を確実に診断する単一の検査法はありませんので、認知症の疑いのある患者では半年ごとに検査を繰り返すことが必要です。
次回は、認知症の発症にどんな要因が関係するかについて説明します。
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老年期に入ると多くの老人が記憶力の減退を自覚します。一時的に人の名前が出てこない、言いたい言葉がでてこない、話の一部を忘れてしまったなどは殆どの健康老人が経験することです。しかし、健康老人ではもの忘れが1年、2年という単位で目立って進行することはありません。一方、認知症患者では、加齢同様のもの忘れで発症しますが、それが進行性となり、発症後2,3年も経つと認知症患者として特徴ある症状を呈するようになります。家族から見ると、同じ事を何度も言う、聞くようになるが気づきの始まりであることが多いようです。
次に、認知症早期の患者のもの忘れに伴う生活上の変化・問題を列記します。
1)電話を受けていたのに伝え忘れが起こり、さらにその電話を受けたことさえ覚えていない。
2)その日の予定そのものを忘れてしまい、すっぽかす。
3)しまい忘れが目立つようになる。自分で置いたり、片付けたりした物の場所が分からなくなる。そのため、誰 かが取った、盗んだと思い込み一騒動が起こることがある。
4)薬の飲み忘れや飲み間違いが起こるようになる。
5)冷蔵庫の中に賞味期限や消費期限の切れた物が増えたり、同じ物を繰り返し買い込んだりする。
6)日や時間が曖昧になる。
7)言葉が出にくくなり、あれ、それなどが言葉の中に目立つようになる。
これらは一部に過ぎませんが、認知症早期に特徴的なもの忘れは、古い記憶は鮮明なのにもかかわらず、新しい記憶が強く障害されることです。すなわち、昨日・今日の記憶は曖昧になったり、忘れてしまったりするのですが、過去の記憶や習慣に問題は見られません。そのため、通常の時候のあいさつや会話の受け答えは殆ど問題なくこなし、分からないことはうまく取り繕いますので、他人は勿論、家族でも異常を感じ取ることは難しいのです。
認知症早期にもの忘れと共に重要な徴候は、意欲低下や不定愁訴が見られることです。それまで楽しんでいた趣味に興味が薄れたり、日課に手抜きが起こったり、他人と会うことを面倒がったり、頭が重い、すっきりしないなどの鬱的症状の訴えも見られやすくなります。患者によって強い不安感を持つ場合もあります。そのため、老年期鬱病と取り違えされ、抗鬱剤が投与されることがあります。
生活背景も重要です。早い人では60歳代に発症しますが、この時期は定年退職や子供が自立し老夫婦だけの生活になっていたり、連れ添いを亡くしていたり、生活に大きな変化が起こり易い時期にあたります。そのため、もの忘れや鬱的症状が発現しても、一時的な精神的な問題とされやすいのです。そのため認知症の早期発見が遅れることがあります。
家族と同居していても、子供達は仕事で夜しか戻らず、その間、年寄りが家庭に取り残される形になります。孤独感を味わいながら、何をするでもない生活を送る老人も多いようです。特に、住み慣れた土地を離れ、息子や娘夫婦の家庭に身を寄せている老人では殊更そのようです。毎日が仕事や子育てで忙しい家人が同居中の親の脳の中で認知症が進み始めていることにはなかなか気づけないのです。それが普通一般と言ってよいでしょう。 むしろ、仲の良い友達や同じ趣味・サークル仲間が友の異変に気づく場合が多いです。
認知症早期には徘徊を含めた行動異常は基本的にありません。前述したような症状が中心ですので、家族や周囲の人が先ず、気づいてやることが早期治療の第1歩になることを忘れないで下さい。
次回は私が行っている「もの忘れ」専門外来について説明しましょう。
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私はもっぱら脊椎外科医としてツイート、ブログを書いていますが、実は長い間、「ものわすれ」専門外来もやってきました。外科医が「もの忘れ」外来と驚かれ、違和感を覚える方が多いと思いますが、脳神経外科医は脳神経外科疾患との鑑別に認知症の知識が必要になります。認知症の専門は勿論、精神科医ですが、現在は神経内科にも認知症を専門にする医師がいます。地域では、脳神経外科医が必要に迫られて「もの忘れ」外来を行っている施設が多く見られます。
なぜ、「もの忘れ」外来が必要になったのでしょうか?
それは1999年11月にアリセプトというアルツハイマー型認知症の治療薬が薬価収載され使用できるようになったことにあります。
それまでは、アルツハイマー型認知症とわかっても治療薬がありませんでした。そのため、周辺症状といわれる徘徊などの異常行動が始まってからやっと診断されるというのが普通であり、早期診断という考えは一部の医師を除いてなかったのです。
ところが、アリセプトの登場は認知症の診療を一変させました。なぜなら、アリセプトは認知症早期に使うことで、その薬効を最大限に発揮できるからです。残念ですが、この薬は認知症を治す薬ではありません。認知症の進行を遅らせる薬としての位置づけです。ですから、早期であればあるほど長い効果が期待できるということになるのです。
では、アルツハイマー型認知症を早期に診断するにはどうしたらよいのでしょう。
昔から、「自分で呆けたと言っている間は大丈夫」と言われてきました。自立的生活を維持している状態という意味ではその通りです。しかし、アルツハイマー型認知症の初期には患者にその自覚があります。それは、「忘れっぽくなった。頭がすっきりしない。意欲がなくなった。集中できなくなった。仕事でミスが多くなった。」などが本人の自覚の中にあります。この段階では、家族にも周囲にも気づかれていないことが多いのが普通です。70歳を過ぎた人では、歳のせいと片づけられてしまいます。病院や診療所通いの患者が主治医にそのことを相談しても、「歳のせいですよ。自分で気づいているのなら心配ない」と言われていたのです。
私にも苦い経験があります。通院中の70歳代の女性患者が忘れっぽくなったことを訴えられたことがありました。毎回外来で見ているその人とは何ら変わりがなく思われ、お決まりの対応をしてしまいました。不安を取り除いてあげたいという思いもあったのですが。ところが、ある日、家族と一緒に受診され、他の医療機関でアルツハイマー型認知症の診断を受けたと知らされました。今でも忘れられない私には衝撃的な出来事でした。家族の説明を聞くと、家庭での生活には外来では想像のできない程の問題が起こっていたのです。家族は脳神経外科医である私が診ているのだからと安心していたようです。しかし、不安になり他の医療機関を受診されたのです。これはアリセプトが使えるようになった2年後くらいのことでした。私はひどく自分を恥じました。上面しかみない診療をしていたのです。家族に来ていただき、生活の状態を聞き出していれば、診断できたはずだからです。それがきっかけとなり、私の認知症に対する真剣な取り組みが始まりました。その後、アルツハイマー型認知症治療薬が幾つか新たに使えるようになりました。この分野は徐々にではありますが、着実に進歩を遂げています。
アルツハイマー型認知症を治す薬が未だない現状において、その進行を遅らせ、症状の改善を図る治療薬をできるだけ早期に患者に投与し、生活の質をより長く維持してもらう。これが現在のアルツハイマー型認知症に対する私ども医師の基本的なスタンスです。
認知症は高齢化社会ではありふれた病気として、いつか自分を含め家族の身にふりかかってくる恐れの多い病気として、さらに早期診断には家族や身の回りの人々の気づきが不可欠な病気として認識することが極めて重要です。
私のブログでは、これからは認知症の問題も取り上げていきます。認知症は患者本人には勿論ですが、それ以上に家族にとって大きな悩み、問題になります。家族の方々に少しでもお役に立てる内容になるよう頑張りたいと思います。
次回は、認知症の早期発見のために家族や周辺の方々はどんなことに注意が必要かを説明いたします。
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