腰椎変性疾患はありふれた病気でありながら、治療はなかなか患者さんの満足いくものにならない現状があります。その理由をあげれば枚挙にいとまがありませんが、大きな傾向があります。その一つは正確な診断がつかないためです。ここで紹介する患者さんの病気は
腰部脊柱管狭窄症ですが、その診断がつかなかったために長い辛いときを過ごされました。なぜ診断がつかなかったのか、わかり易く解説します。記事は次をクリックしてください。

頚椎と腰椎の狭窄症手術を受けられ、active lifeを取り戻された柴田美智子さんの体験記が出版されました。
本書では、一患者さんが不安や葛藤を乗り越えて、どのように手術治療に至ったか、そのプロセスが詳述されています。
柴田さんはご自身の体験と手術治療に関する多くの学習・情報収集から、著書の中で手術成功には三つの秘訣があると述べています。その一つはよい医療との出会い、二つ目は手術の時期、三つ目はリハビリ。脊椎手術を専門にする私も全く同感です。
また、私の拙書「腰椎手術はこわくない」から幾つかの文章が引用されており、大変光栄に思います。
本書はこれから頚椎や腰椎の手術を受けられる患者さんにとって大変参考になるほか、脊椎手術を専門にする医師にとっても
患者心理を知り、適切なインフォームドコンセントと手術治療を行うために極めて有用と思います。
「脊椎外科医の戦場」佐藤 秀次
2002年から2013年までの11年間に、私が手術顕微鏡とTube retractorを用いたMD法で
手術を行った腰部脊柱管狭窄症は826例ありました。
その内、2012年1月から2013年12月までの2年間にMD法で手術を行った176例を検討いたしました。
年齢:14ー91歳(平均68歳)
性 :男117例、女59例
椎間板ヘルニアや変性すべり症、分離すべり症、側彎症などに合併した脊柱管狭窄は検討から除外してあります。
除圧椎間数(176例)は1椎間と2椎間で全体の95%です。私は、MRIで脊柱管狭窄があっても、症状とは関係しない、無症状のもの対しては原則、手術は行いません。
1椎間: 88例 (50%)
2椎間: 80例 (45%)
3椎間: 8例 ( 5%)
手術椎間(272)は、最も多いのがL4/5、次いでL3/4、L5/S1、L2/3、L1/2の順です。
L1/2: 1例 ( 0.4%)
L2/3: 19例 ( 7.0%)
L3/4: 64例 (23.5%)
L4/5: 154例 (56.6%)
L5/S: 34例 (12.5%)
脊柱管狭窄症に合併した腰椎変性疾患の他の病型は、
椎間孔狭窄:22例 (13%) L4/5:14例、L5/S:7例、L2/3:1例
椎間孔外狭窄:8例 (5%) すべてL5/S
過去に脊柱管狭窄症の手術を受けた症例で同一部位の再発は9例ありました。
脊柱管狭窄症と同じレベルに滑液嚢腫を合併した症例は3例でした。
手術はすべて、小切開のMD法で行いました。
狭窄症1椎間の手術時間は平均1時間、出血量は10mlです。
手術成績: 次の基準で評価しました。
Excellent:術前の痛みを含めて、症状はすべて消失、 Good:痛みと歩行障害は解消しているが、下肢にしびれなど神経症状が一部残る。鎮痛剤などの治療は不要、Fair:痛みや歩行障害は改善しているが、充分とは言えない。 Unchanged:術前と比べて改善なし。Worse:術前よりも悪化している。
1)全体 176例では、ExcellentとGoodを合わせると94%になります。
Excellent 54例
Good 112例
Fair 10例
Unchanged, Worse 0例
2)脊柱管狭窄症+椎間孔内外狭窄 30例
Excellent 6例
Good 24例
3)狭窄症術後再発例 9例
Excellent 4例
Good 5例
術中トラブル
高度の狭窄例で馬尾弛緩を伴っていた2例で、硬膜破損と馬尾脱出が起こり、
傷を広げて、馬尾を硬膜の中に戻し、縫合閉鎖を行った。
神経症状などの合併症はなし。
神経障害(-)
感染症(-)
内科的合併症(-)
結論:
腰部脊柱管狭窄症のMD法による手術成績は、患者にとって満足できるものでした。手術による後遺症状を残した症例も
合併症もありませんでした。脊柱管狭窄症に併存することのある椎間孔狭窄症や椎間孔外狭窄症、滑液嚢腫などを的確に診断し手術することが手術成績の向上につながります。
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今日は、81歳の女性の長い年輪を刻んだ腰椎へピンポイント手術で挑みました。
間欠性跛行と左大腿部の痛みで生活が困難になっていました。
腰椎はといえば、MRIでは、L2/3に中程度の脊柱管狭窄症とL4/5に高度の脊柱管狭窄、同じL4/5の左側に外側型ヘルニアを認め、L5/S1には椎間板ヘルニアを認め、腰椎症性変化もそれなりに進んでいました。
この患者さんの生活の質を回復することが必要と判断しました。そこで先ず、患者本人と家族に説明したことは、立って歩ける状態を回復することを第一のゴールにしましょう。その次のゴールは下肢のしびれなどの症状がどこまで改善するか、それを時間をかけて見ましょう。しびれが取り切れるかどうかは3ヵ月以上、経過をみて最終ゴールを判断する必要があるでしょう。なにぶんにも、長い時間をかけて症状が進んできたのですから、事前の正確な予測は困難です。
そんな説明を行い、MD法(チューブレトレクターと手術顕微鏡を用いた最小侵襲手術)により、18mmの皮膚切開で、左側から両側のL5神経根を除圧し、さらに左で外側型ヘルニアを摘出し、左L4神経根を除圧しました。
手術時間は1時間10分、出血量は10mlで成功です。術後、経過に問題なさそうですし、明日から歩けるでしょう。
今回、l2/3とL5/S1は症状とは無関係と判断し、手術の対象とはしませんでした。今後、問題になれば、またピンポイントに対処すれば良いというのが私のポリシーです。
現在の症状の原因になっている部位にピンポイント手術を行うことで、患者の手術による痛みは軽減され、80歳を超えた方でも翌日から歩行が開始できます。術後は鎮痛剤は多くの患者で不要です。
明日は、70代の男性の進行したL5/S1の腰椎分離すべり症による高度の椎間孔狭窄にたいして、両側L5神経根の除圧と椎体間固定、ペディクルスクリュー固定を予定しています。立位・歩行が困難になってきたために、手術を希望され受診された患者さんです。なかなか難度の高い手術ではありますが、成功を期して頑張ります。
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最近、経験した30代の患者さんの事例を紹介します。
この患者さんは、腰椎椎間板ヘルニアの手術歴があります。1年前から腰痛と下肢痛があり、立位姿勢を保つことや歩行中に下肢の痛みが発現増強するため歩けなくなる状態がありました。歩いていると自然に腰が前に曲がってくると自覚していました。受診した病院では、手術するほどのヘルニアを含めて問題はないと説明されていました。しかし、症状は好転しないため私の外来を受診されました。
検査の結果、MRIではL4/5の脊柱管の外側狭窄を認め、軽く膨隆した椎間板と椎間関節(正確には上関節突起)間でL5神経根が拘扼されていました。その所見は右に強く、症状の強い側と一致していました。
生活上の支障が大きいため、16mmの皮膚切開とチューブレトレクターと手術顕微鏡を用いたMD法により、両側のL5神経根の除圧を行いました。手術時間は丁度1時間、出血量は5mlでした。
術後は、腰を伸ばして寝ていることができるようになり、立位保持や歩行障害が改善しています。まだ、神経性の下肢の痛みは残りますが、術後1週間ですので、これから回復が進むでしょう。患者さんには素敵な笑顔が戻ってきました。
この患者さんでは、MRIを一見したところでは、脊柱管は狭くなく、むしろ広いと言って良いのですが、L5神経根が脊柱管外側部で拘扼を受けやすい走行をしていました。この神経根の走行は先天的なものであり、加齢により脊柱管が狭くなることで容易に神経根が影響を受けることになるのです。このようなタイプの脊柱管狭窄症は若い人で見られることが多く、診断がなされず、つらい不自由な生活を強いられていることが多いと思います。
そこで、注意していただきたいことは、立位や歩行で腰痛や臀部・大腿・下腿の痛みやしびれが発現・増強し、腰を前に曲げたり座ったりすると改善する方では、MRI所見で脊柱管狭窄はないと言われても、必ずその種の問題がありますので、それを診断してもらえる専門医を探し求めて下さい。諦めないことです。
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