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腰椎手術は成功したが、良くならないのは精神的な問題とされ、真の原因を求めて 遠く県外から受診された高齢女性の一人旅

.19 2017 脊椎疾患 comment(64) trackback(0)

 「坐骨神経痛の原因は椎間孔狭窄症」の診断で、右L5/S1の椎間孔内でL5神経根除圧術とL5/S1のペディクルスクリュー固定術を受けたが、術後症状の改善が得られず、次第に悪化していると訴え、81歳の女性が遠く県外から受診されました。


執刀医から手術は成功しており、痛みが良くならないのは精神的な問題とされ、色々と強い薬を投与され、その副作用にも苦しんでこられた。セカンドオピニオンも必要ないと言われ、無効な治療が続けられてきたと言う。


私の本「腰椎手術はこわくない」を読まれ、何としても真の原因が知りたいと、1年がかりで受診が実現したと言う。精神的なものではない、必ず解き明かされない原因があるはずと、その強い思いが施設住まいの高齢女性を動かしたのである。


私は話を聞きながら、やるせない気持ちになりました。患者さんの症状についての説明を聞きながら、脊柱管狭窄症の症状、それもL4/5の狭窄症と診断できたからです。MRI画像では、診断されなかったL4/5の脊柱管狭窄症の所見が認められました。確かに、脊柱管は全体としては狭くないが椎間関節の変形肥大によって脊柱管外側部が狭くなっており、そこでL5神経根が絞扼されていました。狭窄は最初に症状が発現した右側で強く、左側はそれよりも軽い状態でした。


L5/S1でのL5神経根の除圧と固定術が無効であったのは、真の原因部位が違っていたためです。さらにL5/S1で固定されたために、隣接椎間であるL4/5に負荷が増し、脊柱管絞窄が進行し、症状が悪化したと診断致しました。


患者さんは原因が解明され、執刀医から精神的なものとあしらわれてきた惨めで不安な気持ちから、やっと抜け出せることに安堵された様子でした。そして、当院での手術を予約されていきました。辛い痛みから解放されたくて、高齢にも関わらず大手術を受けることに同意したのに、最後には心の問題とされてしまい、どれほど納得いかなかったことか、胸の痛む事例でした。それにしても私の本を買われ、独学して受診につなげられた知力と行動力に感服しました。なんとしても良くして差し上げなければ、私ども脊椎外科医の存在意義はないでしょう。