わが国の医療はかって、権威主義、医者中心、診療科縦割りなどと余り良い形容がされていなかったことは皆さんの記憶に新しいことと思います。医療専門職はそれぞれに垣根を作り、わが城・わが巣作りに専念していた観が否めません。このような医療風土の中では、主客転倒し、客人である患者の方が身を細め、上から目線、高圧的な医療提供者の反感をかわぬよう振る舞わざるを得なかったのです。このことは医療専門職のみならず、事務員も例外ではなく、患者へのぞんざいな物言い・対応で、非難の対象にもなりました。いまでは、このような病院職員を見ることは珍しくなったので、若い方がこれを読むと、「意外、信じられない」と思うかも知れません。もしそうであるなら身近にいる年配の方に確認してみてください。なるほどと思うでしょう。しかし、上から目線、ぞんざいな物言いは医療界に限ったことではありませんでした。例えば、官公庁、警察、郵便局、国鉄(随分昔のことですが)、その他にも枚挙にいとまがないくらいです。わが国では、かってお客の方が小さくなっていたおかしな時代があったのです。
近年、それが大きく変り、本来あるべき姿に近づいたことは大変喜ばしいことです。しかし、医療界の内部にはまだまだ古き因習がくすぶっていると思うのは私だけでしょうか。「患者中心の医療」と、この頃の医療人が等しく口にする、このスローガンは口先だけの自己満足に終わってはいないでしょうか。これらの疑問が長く私を捉えていました。そうして辿りついた答えのひとつが「多職種協働医療」です。職種の垣根を取り払い、役割分担と連携によって患者を中心に行う医療。それぞれの職種は平等であり、役割が違うだけ。このような理念に裏付けされた医療風土を醸成する責任が病院経営者、さらに病院長・事務長などの管理者にあると私は固く信じます。新しい医療の仕組み作りにリーダーシップを発揮することが求められているのです。
平成31年2月24日に、金沢市の県立音楽堂で開催された第16回日本医療秘書学会の学術大会で、私は「多職種協働医療の時代における医療秘書の役割」とのタイトルで大会長講演を行いました。医師、看護師、その他のコメディカル、そして事務職、すべての職種がフラットな関係で、効率性の高い患者中心の医療提供体制を作り上げることが肝要と訴えました。そうなれば、多職種の役割分担と連携のもとで地域包括ケアシステムは本来の機能を果たすことができるでしょう。形よりも機能、区分け・個別化よりも「ごちゃまぜが」これからの社会のあるべき姿なのです。
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医療秘書の使命と役割