老年期に入ると多くの老人が記憶力の減退を自覚します。一時的に人の名前が出てこない、言いたい言葉がでてこない、話の一部を忘れてしまったなどは殆どの健康老人が経験することです。しかし、健康老人ではもの忘れが1年、2年という単位で目立って進行することはありません。一方、認知症患者では、加齢同様のもの忘れで発症しますが、それが進行性となり、発症後2,3年も経つと認知症患者として特徴ある症状を呈するようになります。家族から見ると、同じ事を何度も言う、聞くようになるが気づきの始まりであることが多いようです。
次に、認知症早期の患者のもの忘れに伴う生活上の変化・問題を列記します。
1)電話を受けていたのに伝え忘れが起こり、さらにその電話を受けたことさえ覚えていない。
2)その日の予定そのものを忘れてしまい、すっぽかす。
3)しまい忘れが目立つようになる。自分で置いたり、片付けたりした物の場所が分からなくなる。そのため、誰 かが取った、盗んだと思い込み一騒動が起こることがある。
4)薬の飲み忘れや飲み間違いが起こるようになる。
5)冷蔵庫の中に賞味期限や消費期限の切れた物が増えたり、同じ物を繰り返し買い込んだりする。
6)日や時間が曖昧になる。
7)言葉が出にくくなり、あれ、それなどが言葉の中に目立つようになる。
これらは一部に過ぎませんが、認知症早期に特徴的なもの忘れは、古い記憶は鮮明なのにもかかわらず、新しい記憶が強く障害されることです。すなわち、昨日・今日の記憶は曖昧になったり、忘れてしまったりするのですが、過去の記憶や習慣に問題は見られません。そのため、通常の時候のあいさつや会話の受け答えは殆ど問題なくこなし、分からないことはうまく取り繕いますので、他人は勿論、家族でも異常を感じ取ることは難しいのです。
認知症早期にもの忘れと共に重要な徴候は、意欲低下や不定愁訴が見られることです。それまで楽しんでいた趣味に興味が薄れたり、日課に手抜きが起こったり、他人と会うことを面倒がったり、頭が重い、すっきりしないなどの鬱的症状の訴えも見られやすくなります。患者によって強い不安感を持つ場合もあります。そのため、老年期鬱病と取り違えされ、抗鬱剤が投与されることがあります。
生活背景も重要です。早い人では60歳代に発症しますが、この時期は定年退職や子供が自立し老夫婦だけの生活になっていたり、連れ添いを亡くしていたり、生活に大きな変化が起こり易い時期にあたります。そのため、もの忘れや鬱的症状が発現しても、一時的な精神的な問題とされやすいのです。そのため認知症の早期発見が遅れることがあります。
家族と同居していても、子供達は仕事で夜しか戻らず、その間、年寄りが家庭に取り残される形になります。孤独感を味わいながら、何をするでもない生活を送る老人も多いようです。特に、住み慣れた土地を離れ、息子や娘夫婦の家庭に身を寄せている老人では殊更そのようです。毎日が仕事や子育てで忙しい家人が同居中の親の脳の中で認知症が進み始めていることにはなかなか気づけないのです。それが普通一般と言ってよいでしょう。 むしろ、仲の良い友達や同じ趣味・サークル仲間が友の異変に気づく場合が多いです。
認知症早期には徘徊を含めた行動異常は基本的にありません。前述したような症状が中心ですので、家族や周囲の人が先ず、気づいてやることが早期治療の第1歩になることを忘れないで下さい。
次回は私が行っている「もの忘れ」専門外来について説明しましょう。
腰痛・坐骨神経痛で悩むより多くの方に読んでいただきたいと
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