腰椎MD手術では、全くと言って良いくらい合併症は経験していないが、今回、それが起こってしまった。
患者は60代男性で、肝機能障害と血小板減少があった。下肢には慢性化した腰椎椎間板ヘルニアによる症状があった。すなわち、坐位では下肢の症状の自覚はないが、立位・歩行で左下肢のしびれと痛みが発現するというものである。椎間板ヘルニアは脊柱管の外側にあり、神経根を圧迫していた。正確に言うなら、ヘルニアと関節との間で神経根は絞扼されていた。そのため、脊柱管狭窄症に類似した症状を呈していた。
この患者にMD法で神経除圧術を行った。ヘルニアは石灰化といって、固く骨のような組織になっていたため、摘出は不要と考え、神経除圧術のみ行った。手術は問題なく終了した。
ところが、手術の翌朝、両下肢のしびれと歩くと両下肢の脱力があり、転びそうになるとの訴えがあった。痛みは軽いものであった。
術後にこのような訴えがあった時には、手術部位に出血が起こり、固まった血液、すなわち凝血塊が神経を圧迫していることを疑わなければならない。即刻、MRIを行うと、やはり予想した通り、血腫が神経を強く圧迫していた。
その日、予定していた手術が終了しだいに局所麻酔で血腫除去を行った。前回の切開部位を開き、直径16mmのチューブ状の開創器を挿入して、手術顕微鏡下に貯まった血腫を吸引器で吸い取った。神経は血腫により強く圧迫されていた。
手術が終了して直ぐに、患者の下肢の症状は劇的に改善した。患者は「楽になった、自分の足になった。しびれはない。力もはいるようになった。」と喜んだ。
私は、椎間板ヘルニアに対する腰椎MD手術を既に1000例を超える数、経験している。しかし、このような術後の合併症は初めての経験である。当然のことながら、ヘルニアの術後にはあり得る合併所として常に注意はしている。この患者は肝機能障害と血小板減少症があったため、術中に一旦は止血されたが、その後、出血が起こったものと推測された。
手術は患者の身体の条件によって、起こりやすい合併症がある。それを未然に防止することが重要であるが、それでも、起こる合併症には速やかな対応が必要である。この患者の例で分かるように、術後出血の場合、早期に血腫除去を行うことで、神経機能障害は速やかに回復するのである。経過をみてから、手術をするか否か判断するという姿勢は後手後手に回る危険性があり、勧められない。
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