私がネット上でブログを散策するようになってから、腰椎椎間板ヘルニア(以後、腰ヘルニア)の症状と戦いながら生活を送っている多くの人々の生の声を聞くことができるようになりました。
腰ヘルニアは罹病率の高い、ありふれた病気であり、それを持ちながら生活している同病者が周囲に少なくないことから、治らない病気、持病、付き合っていかなければならない病気、老化現象、老人病などなど、様々な受け止め方がなされています。
これらの受け止め方に共通しているのは、「腰ヘルニアは治る病気、治せる病気」という認識の欠如と手術治療への恐怖です。しかし、それは腰ヘルニアの治療史の中で、人々が自然にそう受け止めるようになったものです。腰ヘルニアは現在まで、そして現在においても尚、安全・確実に治すことの出来ない病気であり続けているのです。
果たして、腰ヘルニアの診断は現在、どれだけ正確に行われているでしょうか。私は自分のブログの中で繰り返し述べてきたように、腰ヘルニアの診断はMRI画像上で容易なものから、脊椎専門医でも診断に苦慮するものまで、その診断の難易度の差は実に大きいのです。さらに、MRI画像に見られる腰ヘルニアは単なる椎間板の老化現象と見なして良い物が多いのです。今、患者の症状の原因になっているヘルニアはどれなのか? 明確な根拠を持ってそれを言い切ることのできる医師は案外に少ないのが現状です。
診断のあいまいさ、困難さから、ヘルニアの治療に誤りが生じるのです。例えば、手術で関係のないヘルニアを摘出したり、ヘルニアの重症度の評価を誤ったり。今でも、このような誤りが多いのが実情です。一方、保存治療を専門に行う医師や鍼灸師、整体師などによって、漫然とした治療や施術が繰り返えされている内に神経機能障が進み、生活の質を損なう後遺障害を残してしまったという患者も少なくありません。
このような治療の現状において、患者にとっては何が真実なのか、どう対処したらよいのか分からないというのが悩みと思います。そこで、ヘルニアという病気の本質や特徴を良く知り、治療において正しい選択ができるよう、アドバイスしたいと思います。
腰ヘルニアの本質・特徴とは、
1) 椎間板ヘルニアとは椎間板や靱帯が老化変性することで弱くなり、骨と骨の間から周囲にはみ出した状態を言います。靱帯が破れた時にぎっくり腰と呼ばれる腰痛が起こることは既にブログで説明済みですので、ご覧下さい。ヘルニアの初期は腰痛のみが特徴です。これは2~4週間くらいには自然消失します。
2) このヘルニアは再発を繰り返しながら、次第に椎間板の外にはみ出しが強くなり、脊柱管内を通る神経に圧迫を加えると臀部から大腿部の痛みや、下肢のしびれ、筋力低下、そして排尿障害などが生じるようになります。その進み方や程度は人それぞれであり、その期間は数ヶ月から数年に及びます。ヘルニアが大きいため、発症後短期間で排尿障害まで一気に進む場合もあります。
3) ヘルニアは自然に吸収消失し、治癒するものが多く存在します。この現象に対して、ヘルニアが元の椎間板の中に戻ったという表現を使う人がいますが、そんなことはあり得ません。椎間板内は高い圧がかかっており、一旦、椎間板の外にはみ出した椎間板組織がその中に戻ることは物理学的な法則に反することです。身体がヘルニアを異物として捕らえ、吸収消失させるのです。この反応が起こるのは、およそ発症後1~3ヵ月の期間です。大きいヘルニアですと、それ以上に時間のかかることがあります。人によっては、このようなヘルニアの吸収消失が起こらず、ヘルニアがそのまま残ることもあります。
4) ヘルニアによる症状は、身体の自然治癒力で治るものであり、すべての保存治療は自然治癒するまでの間の症状、特に痛みを軽減することが目的であり、補助的なものです。しびれに対して、しばしば、神経ビタミン剤が処方されますが、ヘルニアにより神経が圧迫された状態では、ビタミン剤の効果は期待できません。効果があるとするなら、障害を受けた神経の回復期でしょう。私は殆どの場合、ビタミン剤は処方いたしません。なぜなら、私は手術治療を専門に行っていますので、ヘルニアを摘出すると、しびれは神経の回復力によって改善していくからです。
5) ヘルニアが神経を圧迫・刺激する状態が続く限り、症状の満足できる改善は期待できません。このような段階に至ったヘルニアは手術で摘出することが唯一の根治療法です。
6) しかし、手術の結果は術者の技術に依存しますので、術者を選ぶことが肝心であることは言うまでもありません。患者は居住地域で実績のある脊椎外科医の情報収集を行うことを勧めます。冒頭、「腰ヘルニアは治る・治せる病気」と言ったのは、「腰ヘルニアの多くは自然治癒する病気であるが、自然治癒しない場合には手術で治せる病気」という意味なのです。
腰ヘルニアのために長々と生活を犠牲にしている方がおられるなら、どこかで現在の窮状に風穴を開け、脱出を図らねば、人生をみすみす無駄に過ごしてしまうことになるというのが脊椎外科医としての私の助言です。
腰痛・坐骨神経痛で悩むより多くの方に読んでいただきたいと
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