脊椎外科医から見て困った患者に遭遇することがあります。それは手術によって良くなった症状を喜ぶよりも残っている症状に不満を言い続ける患者です。これは手術によって得られる症状の改善度と患者の手術治療に対する期待度の大きさとの間にギャップが存在する場合に起こります。このような患者の不満が起こる原因の多くは医師による説明不足と思われます。しかし、手術による症状の改善度を術前に正確に予測する方法はないのです。従って、医師が個々の患者の手術結果を完全に見通して、術前に具体的に説明することは不可能に近いのです。
そこで、患者の理解を助け、誤解を避けるため、手術後も下肢の痛みやしびれ、麻痺などが残る患者と残らない患者の違いがどこにあるのかについて私見を述べます。
症状が残存しない患者は一言で言うと、術前に神経障害がなかったか在っても軽かった患者です。これらの患者では、ヘルニアや狭窄症などの術後に時期が来れば、多くは術後3ヵ月以内に症状の全てが解消します。
一方、腰痛や下肢の症状が残存する患者は、術前に神経障害が進んでしまった患者です。具体的には、下肢の皮膚感覚が強く障害されていたり、びりびりとした異常感覚や冷感などがあったり、筋力の低下が強く、筋肉の萎縮が進んでいたり、膀胱や肛門機能の障害が現れている患者です。さらに、これらの症状が半年以上に渡って続いている患者では術後の神経機能回復は大きな制約を受けます。
その理由は、ヘルニアであれ、狭窄症であれ、手術で外科医が出来ることは神経の圧迫状態を取り除くことであり、障害を受けた神経そのものを直接に治すわけではないからです。すなわち、術後の神経機能の回復は神経に残されていた回復力の良し悪しで決まるのです。繰り返しますが、どんな名人が手術を行おうと、神経機能の回復は神経自体の力によるのです。ここが重要なポイントです。手術治療のタイミングが症状の最終的回復と強く関係するのです。
だからこそ、同じ病名で同じ手術を受けても治り方はその人、その人で異なるのです。私は、術前に患者に常に説明することの一つは、手術を受けた他の患者と自分の術後経過を比較するなということです。同じヘルニアという病名でも、術前に神経障害が進んでいた患者とそうでない患者では術後経過と最終ゴールは異なるのです。
患者が以上の事柄を知らされ理解していたなら、手術に対する過度の期待を持たないで済むかもしれません。人は勝手に一方的に持った期待であれ、それが裏切られたと知った時に不満が大きくなります。従って、医師は期待できることと出来ないことを明確に分けて患者に説明する努力をすべきです。予測不明は不明として、そのまま患者に伝えることが良心的と思います。
結局、私達外科医にとって困った患者とは、受け入れるしかない結果であることを説明しても、それが受け入れられず、不満を持ち続け、精神さえ病んでしまう患者のことであり、もともとの性格が強く関係しているように思います。
腰痛・坐骨神経痛で悩むより多くの方に読んでいただきたいと
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