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医療相談室  Q & A Part 2 ヘルニアの痛みはどうして起こるのか?

.06 2012 腰椎椎間板ヘルニア comment(3) trackback(0)
Q:
痛みの認知は末梢神経の痛み受容器に発痛物質が感作して、生ずると知りました。
つまり例として、足先が痛いのであれば、その部分の末梢神経の痛み受容器が、痛み原因物質を認知し脳へ電気信号として痛みを伝え脳が痛みを認識する。
では、腰椎部の神経が炎症をうけるとなぜ、下肢の痛みとなるのでしょう?腰椎部の神経の炎症が、下肢の痛み受容器をかってに感作させるのでしょうか?そんなことは理論的にないと思うのですがいかがでしょうか?
試してガテンの内容がこの通りであれば、納得してしまいます。
ヘルニアによる下肢の痛み痺れが、上記の理論に会わないと考えますがどうでしょうか?
お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。

A:
私達の身体は痛みをどのような仕組みで感じるのか。皮膚に加えられた痛み刺激は、基本的には貴方が勉強されたように、末梢神経を介して脊髄に伝えられ、そこから、さらに脳に伝達されて痛みを感じるのです。

その逆に脳や脊髄の病気が手や足、顔などに痛みを出すこともあるんです。このメカニズムは色々と検討されてきたましたが、まだ完全には解明されていません。大ざっぱに言うと、痛みを起こす神経系統とそれ抑制する神経系統のバランスが崩れることによって起こると考えられています。例えば、脳出血の一つである視床出血には、その後遺症として視床痛という患者にとっては大変つらい痛みがあります。さらに、脊髄損傷を受けた患者が四肢や手足の不快な痛みに悩まされることも多いんです。これらの痛みは中枢性の痛みと呼ばれ、始めに触れた末梢性の痛みとは異なる仕組みで起こるのです。

それでは、腰の場合はどうでしょうか。腰の神経は末梢神経に属します。この神経がヘルニアなどで傷害を受けると、その神経が支配している皮膚の領域に痛みを感じます。例えば、腰椎4と5番の間のヘルニアでは5番の神経が障害され、皮膚の痛みは5番の神経が支配する領域、すなわち下腿外側や足背に起こります。これは神経の直接的傷害による痛み刺激が脳に伝わり、脳はその神経の支配領域に痛みとして感じるのです。実は、ここに痛みが精神的なものと混同されてしまう理由があるのです。

腰ヘルニアを除去したにも関わらず、患者は痛みを訴え続けると、医師はヘルニアを取ったのだから痛みは良くなっているはずだと考えます。それが良くならないのなら、痛みが患者の脳に記憶されてしまったためと理解するのです。確かに幻肢痛といって、下肢を失った患者が無いはずの足の指に激痛を訴えるという不思議な現象があります。このように脳に記憶された痛みに苦しむ患者はいるのです。

しかし、ヘルニアの手術後も痛みを訴え続ける患者の痛みが脳に記憶されてしまった痛みと即断すべきではないのです。手術で摘出されたヘルニアが本当に患者の痛みの原因であったのか、この疑問を持つに十分な程ヘルニアの診断はまだまだ不完全で困難なものが多いのです。私は精神的なものと見なされてきたヘルニア患者の再手術を行い、痛みを改善してきました。そのような誤った診断・手術によって、良くならなかった患者が医師によって精神的と見なされていることが少なくありません。そのような患者を一人でも少なくしたいというのが私の願いです。この痛みの問題は実に複雑で難しいですね。しかし、医師が患者の痛みを我が痛みとして、真剣に向き合うことから解決の糸口が見えてくると思います。


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一患者
佐藤先生様

ご回答ありがとうございます。私も自らの状況を改善すべく色々と学習しました。もちろん絞扼(圧迫ではなく、神経が強烈に締め付けられ馬尾症候群のように神経が障害を受け「麻痺」状態になり排尿障害になり至急の除圧手術が必要)の意味も学習しました。

色々先生様の考えを教えていただきましたので、なぜ私が色々と疑問が沸くのかだけお答えします。

患者は適切な治療を受ける権利があり、その為には医師の説明に頼るだけではなく自らが積極的に学習をし、納得した上で治療をうけることが大切と考えるからです。

腰痛、下肢の痛み、ヘルニアのキーワードでは千差万別の説明がなされている現状、患者自身が学習するしかないと判断しているからです。(まして国家放送では、ヘルニアは殆ど関係ない、いやヘルニアが原因だ、いや筋肉筋膜が原因、いやストレスや脳だ・・何を信じればいいのでしょう)

手術によるカウサルギーの発生など、普通は知らないリスクも当然あります。知っていることと知らないことは、0と100の違いです。

無駄なドクターショッピング、治療結果に不満を持たないためには患者側が学習し、きちんと自分の疾患に向き合うことが一番大切だと考えるからです。

いろいろありがとうございました。

2012.08.09 02:08
drshujisato
色々と疑問が沸くのですね。貴方が質問する内容は医師でも答えられない人が多いと思いますよ。なぜなら、ヘルニアで圧迫された神経がなぜ痛みを出すのか、出さないのか。なぜ、あるヘルニアは痛みを出し続け、あるヘルニアは痛みを出さなくなるのか。実は、この疑問に答えられる医師は脊椎専門医でも少ないと思いますよ。私はヘルニアを知り尽くすために、この疑問を持ち、考えた時期があります。その答えだけ教えましょう。
ヘルニアが症状を出し続けるのは椎間板腔内の圧がヘルニアに伝わり、それが神経根を刺激し続ける場合と神経根がヘルニアと骨との間で拘扼され(単なる圧迫とは異なります)、腰椎の動きによる影響を神経根が受け続ける場合です。症状が無くなるヘルニアはこの反対と思ってください。すなわち、ヘルニアが神経を圧迫していても、椎間板腔内の圧がヘルニアに直接に伝わらない場合、あるいは、神経根の絞扼がなく、腰椎の姿勢や動きの影響を神経根が受けない場合です。炎症は神経症状を増強する効果を持つものてあって、その元にあるヘルニアによる神経根の影響の仕方が症状の持続性に重要な意味を持つのです。
この種のQ&Aは治療に直結する話ではないので、この辺で終わりにしましょう。
 


2012.08.09 00:15
一患者
佐藤先生様

ご質問にご回答いただいた後、興味ある内容を確認しました。なるほどだと思いました。

①圧迫されたまま保存療法で治るのはなぜか?

→圧迫されたまま、神経の炎症がとれたということでしょうか?これは、除圧してもしなくても治るということになります。

②圧迫された部分が炎症し、該当部分以外の痺れ痛みが発生するということであれば、なぜ大部分の腰椎外科医はまず、保存療法を薦めるのか?
先生のお話ですと、炎症が進んだ場合、術後機能改善せず痛みが残ってしまうリスクが増えるだけということになります。

やはり、神経が炎症を起こし、他の部分の痛みが生じるというのは、きわめてまれな現象と認識するのが妥当だと思いますがいかがでしょうか?

神経が圧迫ではなく損傷すれば、麻痺がおきると教えていただいたことがあります。圧迫と損傷は違う状態であり、痺れ痛みと麻痺は全く違う生理現象だと。。いかかでしょうか?

患者が自らの治療を考える上で非常に重要な事だと思いましたので、再度先生様のお考えを聞きたくなり質問させていただきました。

どうぞよろしくお願いいたします。

2012.08.08 14:19

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