患者が椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、すべり症などによる痛みやしびれ、歩行障害などを訴え、病院を受診しても、手術はまだ早いと言われ、保存治療、つまり薬物治療やブロックなどの対症治療が行われることが一般的です。
初診時にいきなり手術が必要と言われることは余りないことでしょう。しかし、私の外来には何カ月も、時には何年も保存治療を続けてこられ、その間、症状は一進一退を繰り返すか、次第に悪化傾向を示すために受診される患者が多い。受診される患者の多くは、私の手術で良くなった元患者やその家族・親戚や知人に勧められてという口コミ情報での受診が多い。最近では、私のブログを見て、受診される方もちらほらです。
そのような事情のため、受診時に患者の方が既に手術を受けたいと気持ちを固めていることが多く、こちらが戸惑うこともあります(笑)。
さて、手術を行う、行わないはどう判断すべきでしょうか。この判断において、医師と患者の基準は異なるのが普通です。医師の手術が必要とする基準は神経障害が進み、麻痺が発現してきた場合、間欠性跛行などの歩行障害が進んできた場合、保存治療の効果がなく、強い腰痛や下肢痛が持続する場合、膀胱直腸障害が発現した場合ーこれは緊急に手術が必要です。これらの基準を満たす場合には手術が必要というのは脊椎外科医の間で一致していると思います。
MRIで見たヘルニアが大きい、小さい、脊柱管狭窄の程度が強い、軽いは手術適応基準ではないのです。なぜなら、これらの所見と症状は必ずしも一致しないからです。以前にもブログに書きましたが、大きなヘルニアでも脊柱管が生まれつき広い人では症状は軽いことがありますし、小さなヘルニアでも椎間孔付近では症状は重くなるからです。あくまでも、症状から見た重症度で手術が必要か否か、緊急性があるかないか、経過をみて判断か、などが決められるのです。
患者側から見た困った問題は、強い痛みのため、あるいは坐位や立位を保持することが困難なため、あるいは歩行が十分にできないために、生活や仕事に支障を来しているが、医師からは、まだ手術は必要ない、まだ早いと言われてしまう場合です。実は、このような状況におかれて悩んでいる患者が多いのです。
このような生活の質に関わる問題は患者の年齢や職業、業務内容などによって大きく異なります。
例えば、脊柱管狭窄症は進んでいるが、腰を曲げていると楽な患者は痛いながらも農業に従事できますし、タクシの運転手もできます。一方、腰ヘルニアの患者は通常、坐位や腰を前に曲げる姿勢で痛みが増強しますので、事務職や大工などの肉体労働者などにとってはつらいことになります。
私は前述した一般的な手術適応基準の外に生活の質を重視した視点が腰椎変性疾患の治療に重要との立場を取っています。その視点で保存治療が良いのか、手術が必要なのかを判断しています。
生活の質重視ですから、手術で症状の悪化を招くことはあってはならないことです。それ故に、脊椎外科医は高い診断力と技術力を習得せねばならないと自らに言い聞かせています。
腰痛・坐骨神経痛で悩むより多くの方に読んでいただきたいと
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