患者は60代、男性。
主訴は3年前から左足がしびれ始めた。次第に少し歩いてもしびれてきて歩けなくなった。受診の2ヵ月前から急にひどくなり仕事を休み始めた。いろいろな病院へ行ったが治らず、
私の手術を受けた方の紹介で受診された。
診察所見:左足関節の背屈力が低下しており、下腿外側から足背にしびれと知覚障害を認めた。
腰椎レントゲン撮影では、腰椎症変化が中心であったが、分離症やすべり症、側彎症はなかった。
腰椎MRIでは、脊柱管内には問題ないが、L5/S1の左側の椎間孔部から外部にかけてL5神経根の強い圧迫を認めた。
手術:腰椎症性椎間孔部、椎間孔外狭窄の診断のもと、17mmの皮膚切開で、MD法の外側アプローチで、椎間孔拡大術と椎間孔外での神経根除圧を行った。神経の圧迫は高度であった。手術時間は70分、出血量は10mlであった。
術後経過は、予想に反して、左下肢の強い痛みが軽減しなかった。始めは術後の炎症性疼痛を疑い、薬物治療を行い、経過をみた。しかし、炎症期を過ぎても痛みとしびれは続き、歩行困難の改善も不良であった。
症状は左L5神経根症である。この神経根症が発現する最も多い部位はL4/5である。しかし、この部位の脊柱管内にはL5神経根を圧迫する病変は認めなかった。残る可能性はL5/S1の椎間孔の内側部、すなわち脊柱管から椎間孔に移行して直ぐの部分しか残されていなかった。そのような目でMRIやCTを検討すると、その可能性を否定できないという結論に至った。
患者と家族に再手術の説明を行い、確信は持てないが、改善の期待はあることを伝え、手術への了承を得た。
再手術は初回手術から約50日後に行った。同じく、MD法で今度は右側から左の椎間孔内へ至り、椎間孔内に入り込んでいる上関節突起という骨を削除した。右側から進入したのは左の関節を残すためである。手術所見としては、想像以上に椎間孔内部でのL5神経根の圧迫は強かった。手術時間は50分、出血量は10mlであった。
麻酔から覚めると、下肢の痛みは激減していた。患者の言葉を借りると、術前の3割くらいに軽減しているとのことであった。術前は下肢を伸ばして、仰臥位で寝ていると、痛みが強くなっていたが、それも解消していた。
私は、この患者を症状の改善不良のまま、退院させることを何としても避けたかった。術後の症状の状態から、L5神経根の圧迫がまだ残っている可能性が否定できなかった。
それで、再手術を決定した。椎間孔周辺の病変に対しては自信を持っているつもりであったが、患者の病気の状態を読み切れていなかったことが残念無念であった。とりわけ、患者には申し訳ないことであった。一度の手術で治せたはずが、二度の手術になったのであるから。
手術で良くできると判断して、手術を行った以上、患者の症状が良くならなかった場合には、執刀医の診断や手術に問題がなかったか、徹底的に検証し、良くする可能性を追求することが脊椎外科医の責務と改めて知らされた経験であった。Failed back surgeryにしてはならないとの強いこだわりを持ち続けたい。
腰痛・坐骨神経痛で悩むより多くの方に読んでいただきたいと
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