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腰椎椎間板ヘルニアの術後、腰を前に曲げた姿勢は何故、ヘルニアの再発を起こり易くするのか?

.23 2012 腰椎椎間板ヘルニア comment(8) trackback(0)
 この疑問は腰ヘルニアの手術を受けた方ばかりでなく、腰ヘルニアを持って生活している方に共通したものと思いますので、例え話を交えて説明します。

 椎間板ヘルニアはよく腰を前に屈めて物を持ち上げた時に発生します。これは腰を前に曲げることで、腰の骨と骨の間にクッションとして存在する軟骨組織である椎間板を後ろ、すなわち、脊柱管の方向へ向けて押し出す力を一気に強めるためなのです。腰椎の骨と骨の間のスペースは腹側で高く、背中側で低いのが正常な状態で、そのため腰椎は前彎(ぜんわん)状態を保っているのです。この姿勢は椎間板にかかる体重の負荷ベクトルを脊柱管側とは逆のお腹側に向けることになり、椎間板が脊柱管に向かい脱出することを防ぐことに役立っているのです。

子供の頃から背筋を伸ばし、姿勢よく座って勉強しようといわれてきたのは、実は、この椎間板による腰痛を防止することにも大きく役立っていたのです。腰を丸めて、姿勢が悪いと椎間板は脊柱管の方向へ押し出されようとします。この椎間板と脊柱管内に存在する神経組織との間には椎間板を脊柱管内へ入り込ませないように、川に例えるなら、防波堤としての靭帯性組織があります。これが線維輪や後縦靭帯と呼ばれる物です。この靭帯が強固なら、椎間板に大きな負荷が加わっても、椎間板が脊柱管内へ侵入してくることはありません。靱帯が椎間板の侵入を阻止するからです。例えるなら、大雨が降り、川が増水しても、防波堤が高く、堅固なら、それを破り川が氾濫することがないようにです。

 椎間板と靱帯には、横になって寝ている時以外、つまり、起きて生活している間中、常に加重負荷、運動負荷がかかっています。運動や労働などで著しい負荷をかけている方も多いです。長い年月の内に、金属疲労と同じく生体である椎間板も傷んで脆くなり、靱帯も弱くなって行きます。これが加齢変性と呼ばれるもので、全ての人に程度の差はあれ、起こっています。

椎間板と靱帯の正常な状態を保ち得ない脆さという条件が揃い、そこに、両者の均衡を破る強い(時には、患者の記憶にない程度の軽い)負荷が椎間板に加わった時に、靱帯が破損して椎間板ヘルニアが発生すると考えると理解がしやすいと思います。

 この靱帯の破損の仕方、椎間板の出方には色々な程度・段階があります。最初から、一気に重度のヘルニアになる方から、軽いヘルニアを繰り返しながら重度になっていく方、その他の経過をたどる方、これも各人、各様なのです。そのために、様々な治療、療法が行われ、効いた効かなかったが取りざたされているのです。

 椎間板が靱帯を破り、神経組織を圧迫すると、該当神経の障害が発生しますので、手術治療が必要になるのです。勿論、自然治癒に向かわない方や最初から重症な経過を示す方においてということになりますが。

 手術治療はラブ法、マイクロラブ法、MED、MD法など、保険適用のある手術法は色々あります。どの手術法を取るにせよ、目的は脱出して神経を圧迫しているヘルニアを摘出することです。その時に、靱帯を切り開く必要が生じる場合が少なくありません。ヘルニアが靱帯を破り、手術でさらに靱帯を切り開くわけですから、防波堤としての靱帯は術後、大きく決壊した状態になるのです。この決壊状態を修復することは現代の医学においてはできません。川が枯渇してしまえば、土手が決壊していても問題が起きないように、靱帯を修復できないのなら、椎間板組織を手術で全部摘出し尽くすことができるなら、ヘルニアの再発は起こらないとう理屈になります。しかし、手術によって椎間板を全て摘出し尽くすことは殆ど不可能と言って良いでしょう。

このように、手術で椎間板を摘出しても、その摘出程度には限りがあるため、残っている椎間板が破損している靱帯を通じて、条件が揃った時に再脱出することが起こり得るのです。

 まとめると、術後は、ある程度の修復があったとしても、基本的に靱帯破損状態は残ります。椎間板の脆さは持続し、時間と共に更に進行します。術後、前屈姿勢を長く取らない、重い物を持つことを避ける、すぐに激しい運動をしないなどは、脆くなって脱出しやすくなっている椎間板を強く脊柱管へ向かって押し出す力を加えないということになるのです。術後3ヶ月以内には、ヘルニアの再発が起こり易いと考え、注意することが必要と思います。このことは、手術法に関わらず重要です。MDやMEDなどの最小侵襲手術は傷の痛みなどが術後、早々に消失するため、患者は早く治ったという気持ちになりやすく、退院後、油断が生じ、無理をする方が多いので、この機会に改めて、術後養生の大切さを強調いたします。

軟性コルセットは術後1ヵ月間は寝ている時以外には着用し、2ヵ月頃から次第に外していき、3ヵ月を過ぎる頃には完全に外すというのが私の指導法です。退院後は、ウオーキングなどで無理なく、足腰の筋力増強に努め、3ヵ月を過ぎる頃から通常の生活に戻していくことが望ましいと思います。勿論、何年も過ぎてから、再発する方もいますが、再発を過剰に恐れることはありません。MD法による椎間板ヘルニアの再発と手術のことは以前の私のブログを参考にして下さい。例え、再発しても、何度でも治せるというのが私の経験であり、見解です。


                            
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2017.06.11 22:35
drshujisato
17/06/10の42歳男性さんへ  Re: 2ヶ月目のコルセット

どんな疾患でどんな手術を受けられたのかが不明なので、正確にお答えできませんが。
ヘルニアや狭窄症で、術後の経過が良いのでしたら、二ヵ月頃からは自宅などで安静にしている時には
コルセットをはずしても良いと思います。仕事の時や車の運転の時にはコルセットをつけられることです。
これはあくまでも一般的なことです。
それではお大事に。

FROM SHUJI SATO
2017.06.11 01:00
42才男性
古い記事にすみません。2ヶ月目からコルセットを徐々に外して、3ヶ月目からは完全に外すとありますが、2ヶ月目はどのような時に外して、どのような時に装着するのか教えていただけませんか?
2017.06.10 01:58
drshujisato
回答は、今日のブログをご覧下さい。
2012.09.26 01:06
47歳 女性
いつも拝見しております腰痛患者です。
先日ヘルニアの髄核を全部取りきれないという質問がありましたが、
私も答えが伺いたかったです。椎間板でなく髄核を全部取りきることは
不可能なんでしょうか?
よろしくお願いいたします。
2012.09.25 21:22
drshujisato
回答します。私は、椎間板摘出を行うなら、できるだけ摘出する主義ですが、
摘出量を数えてはいません。術後のMRIでは、手術した対側の方には結構、残っていますので
感じとしては5~6割位かと思います。平均ですが。なかなか摘出しにくい物から、
容易にぼろぼろと取れる物まで色々ですね。脱出しているヘルニアの全体の割合は、一定
でないですよ。量が少なくても出る部位によっては症状が強くなるし、多くても症状は軽いものもあります。
私は余り%にはこだわっていません。私の方針で、再発して手術になる率は3%くらいです。
2012.09.24 00:33
drshujisato
回答します。
 腰椎の生体力学的な特徴に基づき、説明出来る理論であり、私も経験的に間違いないと考えていますが、
エビデンスとして示したデーターを私は調べたことありませんが、きっとあると思いますよ。
調べられてあったら、逆に教えて下さい。
2012.09.24 00:20
ヘルニア患者
腰椎椎間板ヘルニアの術後、腰を前に曲 げた姿勢は何故、ヘルニアの再発を起こ り易くするのか?

すみません、この内容のエビデンスや統計があるのでしょうか?ebmの観点からお聴きいたします。
2012.09.23 22:18

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