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脊椎退行変性疾患に対する私の手術方針(2):腰椎疾患

.23 2012 脊椎疾患 comment(8) trackback(0)
腰椎退行変性疾患に対する私の手術方針

1) 椎間板ヘルニア
すべての椎間板ヘルニアをMD法で行っています。中心型と後外側型、外側型の多くは正中アプローチ、一方、超外側型と外側型の一部は外側アプローチを採っています。前者では、直径16mm、後者では直径18mmのTRを用います。
手術時間は平均45分、出血量は10mlです。
再発椎間板ヘルニアには、MD法で再発ヘルニアの摘出を行い、腰椎固定術は例外的な最終手段としています。

2) 脊柱管狭窄症
すべての狭窄症に対して、MD法で神経除圧を行います。1椎間以上の多椎間例でもそれぞれの椎間に小切開を加えたMD法で行います。
  正中に16mmの切開を加え、直径16mmのTRを用いて中心型と外側型の除圧を行います。通常は片側から両側の除圧を行います。手術時間は1椎間は平均1時間、2椎間では1時間30分、出血量は10~20mlです。
脊柱管狭窄症では、MD法による除圧のみで固定術はおこなっていません。
狭窄症の再発例では、原則、MD法による再除圧を行いますが、すべり症や不安定椎を伴う場合には腰椎固定術を行います。

3) 椎間孔狭窄
狭窄の部位と程度、すべり症や側彎症の有無などによって、次の1~3の手術法を選択します。
   1 : 椎間孔内側部の狭窄では、正中切開で内側からの椎間孔拡大術を行う。
   2: 椎間孔外側部の狭窄では、外側からの椎間孔拡大術を行う。
   3:椎間孔全体の狭窄や側彎変形、すべり症を伴う椎間孔狭窄では、椎間孔拡大術と腰椎固定術を行う。

4) 腰椎症性椎間孔外狭窄
 L5/S1に見られる特殊な病態です。外側アプローチで椎間孔外でL5神経を除圧します。

5) 変性すべり症
 すべり部位に不安定性があるか、年齢、職業などを総合的に評価し、次のいずれかの手術を行います。
   1:椎間板腔が狭小化し、すべり部に動きのない症例では、MD法による神経除圧のみを行う。
   2:椎間板腔が保たれ、すべり部に動き(不安定性)のある症例では、最小侵襲による椎体間固定術(mini-TLIFまたはmini-PLIF)とペディクルスクリュー固定術を行う。 
      1椎間の固定では、平均手術時間は3時間30分、出血量は90ml
      固定術では、最新のO-armとナビゲーションを用いており、手術の安全性は極めて高い。最小侵襲手術で手術時間が短いことから、術後感染は0である。2椎間固定でも輸血例はない。

6) 腰椎分離、分離すべり症 
 原則、mini-TLIFとペディクルスクリュー固定術を行う。
 手術時間と出血量は変性すべり症よりもやや少な目です。

7) 変性側彎症
 症例によって、
1:椎間孔狭窄では、MD法による椎間孔拡大術を行う。
2:脊柱管狭窄には、MD法による脊柱管拡大術を行う。
3:側彎が強く、椎間孔狭窄の高度な症例では、椎間孔拡大術と腰椎固定術(mini-TLIF)とペディクルスクリュー固定を行う。

腰椎退行変性疾患では、脊柱管狭窄症、椎間孔狭窄症、椎間孔外狭窄症、ヘルニア、すべり症、分離症、不安定椎、側彎症などが複雑に入り組んだ患者がおり、手術治療は一筋縄ではいかないことが少なくありません。極めて多様な病態を示すことが腰椎の退行変性疾患の特徴と言えます。脊椎外科医の診断力と技術力、さらに患者を思いやる心なくしては、克服できないのが腰椎退行変性疾患と言えます。


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drshujisato
12/10/28の脊柱管狭窄症患者さんへ

痛みを与えず、痛みを残さない手術こそが脊椎手術の究極の手術とその理想を追い求めています。
まだまだ道半ばですが、手応えは感じています。
2012.10.29 00:02
脊柱管狭窄症患者
傍脊椎筋の事分かりました。先生の学会の報告のPDAを見て理解出来ました。正中アプローチで多裂筋と棘突起間、外側アプローチで多裂筋と最長筋の間と云う事ですね。正に傷が殆どない先生らしい患者の事を考えた最小侵襲手術、恐れ入りました。
2012.10.28 19:35
drshujisato
12/10/27の脊柱管狭窄症患者さんへ

MDでもMEDでも、原法ではチューブレトレクターを傍脊椎筋を貫通させて骨の上に設置
します。私はこの原法では筋肉のダメージがあると判断し、棘突起と筋肉の間からチューブ
レトレクターを骨までもっていくようにしました。筋肉の中を通さないので、その損傷は
微々たるものと思います。このアプローチは平成15年くらいから行っています。
皮膚切開はほぼ正中に加えます。原法は正中から15~20mm外側に皮膚切開を置きます。
私のやり方が最も筋肉などの軟部組織への侵襲が少ないと思います。
2012.10.28 00:20
脊柱管狭窄症患者
お疲れのところ回答有難うございました。後一つだけ質問があります。
1.目視下の手術は皮膚を切開し、筋肉を剥離して目的な個所にアプローチし椎弓、靭帯、関節の一部を切除し、ヘルニアの除去、神経の徐圧する訳ですね。
2.最小侵襲手術はTrを切開部分から挿入し顕微鏡下で処置する事ですが、やはりTrを挿入すると云う訳ですから筋肉に穴を開けるので剥離と同じである程度の侵襲はあると思いますが?なにせ手術現場を見ていないないのでリアリティが今一つないので理解が難しいです。
2012.10.27 20:02
drshujisato
難しい質問ですね。むしろ、私の方が知っている方から教えていただきたいと思います。
ただし、脊椎外科医領域にもips細胞の恩恵は必ず及ぶと思います。期待しましょう。
2012.10.26 22:49
drshujisato
昨夜、返事を書いたのですが、眠気の中でおかしな内容のまま送信してしまい、朝に気づいて削除しました。
改めてお答えします
質問 1.顕微鏡下と内視鏡手術の違いは?
回答:顕微鏡は3次元であり、立体視できます。内視鏡はモニターを見ながらの手術であり、二次元平面視です。手術顕微鏡は術野全体(あくまでも最小侵襲下で)を見ることができますが、内視鏡は鏡の方向しか見えないので、鏡の方向を変える必要があります。

質問2.上記両手術とも全体的な状態を把握しにくい為徐圧不足になる欠点があるのでは?
回答:全体的な状態が見える見えないではなく、除圧の必要な範囲の判断ができないために、
不完全除圧になることがあるのは、顕微鏡でも内視鏡でも同様と思います。判断の未熟さ経験不足が
不完全除圧の原因と思われます。

質問3.手術方法
①椎弓、靭帯、関節の切除は?
   回答:基本的に必要に応じて、これらの部分的な切除を行います。

②切除した組織は元に戻るのか、また期間はどのくらいかかるか?

   回答:切除した組織は通常は元にもどりませんが、腰椎に不安定性があると化骨がおき
   椎弓切除部位が化骨で覆われることが例外的にあります。数ヶ月、年の単位でしょうか。

③徐圧した神経根の状態は前と、どのように違いがあるのか?色、その他で鑑別可能や?
   回答:絞扼が強いと神経根の表面が充血していることがありますが、除圧しても直ぐに色調が戻る
      わけではありません。神経根がつぶされて扁平化していることがありますが、この場合には
      みるみる膨らみが戻ることが多いです。つぶされたままの状態のこともあります。神経根が十分に      除圧されていれば、その周囲に脂肪組織が見られたり、ゆとりが確認されます。つまり、神経根が      可動状態になります。
  
④手術はうつ伏せの状態で全身麻酔で行われるが、長時間(5-6時間)の場合身体(筋肉、靭帯など)に悪影響はないのか?
   回答:筋肉を器具で強く圧迫しつづけると、その間、筋肉に血流不足がおこり、筋肉が壊死に陥ることが      あります。
     最小侵襲手術は直径16mm位のチューブレトレクターを使いますので、筋肉の圧迫自体は殆どないため、そのような問題はおこりません。私は、1時間前後で狭窄症の手術をしますので、筋肉・靱帯の問題はほとんどないといって良いでしょう。それが、術後痛みの極めて少ない理由です。
2012.10.26 22:46
陸翼
よろしくお願いします。こんばんは、先日はありがとうございました。またで申し訳ないのですが、先生に再び質問があります。

現在、ips細胞で日本の医学が変わるように言われていますが、椎間板ヘルニア、腰椎固定術に利用できるまでは大体、どのくらいかかるものなのでしょうか?現在、東海大学か忘れましたが、そういう実験はあるそうですが・・・・。
固定術のネジ除去をしてもらった先生は「早くても5年ぐらいはかかると思う」らしいです。

質問としては・・・・
ips細胞は椎間板ヘルニアや固定術に利用できるまで、先生の考えではどのくらいかかるか?・・・・です。

よろしくお願いします。
2012.10.24 22:10
脊柱管狭窄症患者
手術の方針については分かりました。下記質問あり宜しくお願いします。
1.顕微鏡下と内視鏡手術の違いは?
2.上記両手術とも全体的な状態を把握しにくい為徐圧不足になる欠点があるのでは?
3.手術方法
①椎弓、靭帯、関節の切除は?
②切除した組織は元に戻るのか、また期間はどのくらいかかるか?
③徐圧した神経根の状態は前と、どのように違いがあるのか?色、その他で鑑別可能や?
④手術はうつ伏せの状態で全身麻酔で行われるが、長時間(5-6時間)の場合身体(筋肉、靭帯など)に悪影響はないのか?
2012.10.24 14:31

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