昨年12月31日の日経朝刊に日本整形外科学科と日本腰痛学会がまとめた腰痛診療の指針が掲載された。膨大な国内外の医学論文の吟味を通して得られた指針である。総論的には現レベルの考え方として、その内容は理解できるものである。
しかし、この指針がこれからの腰痛診療をどう良い方向へ変えていくかについては些かの疑問を感じる。なぜなら、現状において、医師の腰椎変性疾患に対する診断力は必ずしも高くはないというのが私の印象であり、実感であるからだ。保存療法で良くならない患者がいる一方で、手術で良くなるはずと手術をしても、良くならない患者が出ることは今の時代においても珍しいことではない。治療結果が不良である場合には、患者側の問題と合わせて、あるいはそれ以上に医師側の問題についても厳しく検証することが必要である。
新しい指針の概要は、問診と身体検査によって、腰痛は (1)がんや外傷、感染などの重篤な脊椎疾患による腰痛と、(2)まひやしびれ、筋力の低下など神経症状を伴う腰痛と(3)原因が特定できない非特異的腰痛に分類することが重要としている
。
さて、この分類の中で問題が生じるのは(2)と(3)である。私はこれらのグループに属する患者がしばしばと言って良いくらい適切に診断・治療されていないのを経験してきた。その主な理由は、「神経症状が正確に把握されていない。神経学的所見・評価が不十分、不適切である。MRI所見が正確に読めていない。手術が不適切である」などである。当然のことながら、誤った診断のもとでは、保存治療も手術治療も良い結果をだすことはできず、治療に対する患者の期待を裏切ることになる。
腰痛の診断が難しい最大の理由は、診断法が未だ確率されていないためと言っても過言ではない。現状では、医師の経験と総合的な判断力が診断結果を左右する。いかに高性能のMRIを使おうがMRIは答えを教えてはくれない。医師が答えを見出さなければならないのである。
繰り返すが、腰椎変性疾患の診断は極めて難しいのである。レントゲン所見やMRI,CT所見などを単なる加齢変化と見なすか、患者の腰痛や下肢の症状を起こしている病変、すなわち原因と同定するかは、実に患者の症状と身体所見の関連性を見極める力にかかっているのである。
この指針で一番気になる点は、医師の診断力不足から非特異的腰痛という病名が安易につけられてしまう恐れであり、良くならない原因は患者の精神的問題と片付けられてしまうことである。
我々がどんなに良い指針を手にしても、実際の診療の場で適切に活用され、患者の痛みや生活の不自由が改善・解消されていかなければ指針は意味を失うのである。ある意味、これからは指針を利用する医師の力が試さるのである。少なくとも(2)のグループに属する患者に対しては、神経を障害する原因追及を諦めるべきではないというメッセージが込められていると私は理解する。
この腰痛診療指針が患者を救済する指針とならずに、単に患者を良くできない医師の免罪符として利用されることのないよう、今後の腰痛診療を見守る必要がある。
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