2012年に手術を行った腰椎椎間板ヘルニアの内、ヘルニアが単独で患者の症状の原因であったのは59例であった。脊柱管狭窄症やすべり症、側彎症などの他の疾患に合併したヘルニアも含めると、ヘルニアを処理した実数は更に多くなる。
手術を行ったヘルニアの殆どは下肢の神経症状を伴っていた。腰痛のみで手術を行った患者も存在したが、この患者では明らかに椎間板ヘルニアによる腰痛と診断でき、座っての仕事に支障を来していることが手術を行った理由である。
私が初回手術を行った患者や他で初回手術を受けられたヘルニア再発患者は10人であった。その内の一人は3度目の再発であった。再発ヘルニアの手術は敬遠されがちであるが、私は他で手術を受けられた患者も自身が手術を行った患者も分け隔てなく再手術を受け入れている。再発ヘルニアの手術法はすべてMD法であり、再発ヘルニアを摘出している。昨年は、すべり症や不安定性が発現したヘルニア患者はいなかったため、固定術を併用した患者はいない。
腰ヘルニアの中でも特殊のタイプである超外側型ヘルニアは4例で見られ、全ヘルニアの7%であった。このヘルニアには原因不明や他の部位の手術を受けたが症状が改善しなかった患者が含まれている。この超外側型ヘルニアには腰の真ん中に切開を加えるのでなく、
真ん中から40~45mmヘルニア側に小切開を加え、MD法によるヘルニア摘出を行った。
腰ヘルニアの手術効果として、ヘルニア摘出後速やかに激痛は消失する。手術が終わり、麻酔から覚醒すると患者は激痛が消えていると自覚できる。このブログでも書いてきたが、ヘルニア手術による腰部から臀部、大腿部の激痛に対する即効性の除痛効果は目を見張るものがある。まさに術前には痛みに歪んでいた顔が術後笑顔に変わるのである。もし、麻酔が覚めてからも、術前の痛みがそのまま残っていたり、逆に悪化していたりしたなら、神経の除圧がうまくいかなかったか、ヘルニア摘出時に神経に悪影響がでたことを疑う必要がある。悪影響と言っても術後一時的なこともあるので、それなら時間とともに解消していくはずである。
手術が目的を達成し、成功したか否かは患者自身が術後、直ぐに確認できるのである。
しかし、手術が成功し、翌日は嘘のように痛みから解放され、楽であった患者であっても、術後3日頃から再度痛みが始まるのが普通である。これは手術した部位に炎症が始まるからであり、その痛みの程度は患者によって異なる。患者によってはヘルニアが起こった時のような痛みを感じ始め、ヘルニアの再発かと不安になる方もおられる。この炎症期の痛みにはステロイドが著効する。消炎鎮痛剤よりも鎮痛効果に優れる。私は痛みの程度によってはデカドロンという商品名のステロイドを筋注する。これは劇的な除痛効果をもたらすが、炎症が消退するまでは痛みのぶり返しがある。デカドロンは多用すべきでなく、患者によっては消炎鎮痛剤を服用してもら事がある。MD法の場合、手術自体の痛みが僅かなため約8割の患者では鎮痛剤は不要である。この炎症期も術後1~2週間で終わるので、その頃からが本当の意味で障害を受けた神経の回復期と言える。
腰ヘルニア手術の最終ゴールは患者によって異なる。ゴールが異なるは、手術時点で神経障害が元に戻り得る段階にあったのか、なかったかによる。つまり、ヘルニアによる神経圧迫があるが、神経障害はまだ回復できる段階にあった方では、ヘルニア摘出によってすべての症状の解消が期待できる。一方、神経障害が進んでいた方では、手術で腰部から臀部や大腿部の痛みは消失しても、下腿部や足の痛み・しびれが解消するには時間がかかり、消失するにしても長い場合には半年くらいを要する。これはL3/4,L4/5,L5/S1など下位腰椎の一般的なヘルニアの場合であるが、L1/2やL2/3の上位のヘルニアの場合には大腿部や膝に痛みやしびれが持続する形になる。
以上を整理すると、腰へルニアの手術治療では、
1) ヘルニアが摘出され、神経が適切に除圧されると、激痛は速やかに消失する。
2) 術後炎症期には痛みが再燃するが、炎症の消退とともに痛みは軽減・消失していく。
3) ヘルニアによる神経障害が軽い人では、後に下肢症状は残らないが、神経障害が進んでいた人では、下肢の症状が改善するのに時間を要し、半年過ぎても足先にしびれの残る人では、後遺症状としてその後も残る可能性がある。
4) 下肢症状が良くなるなりかたは、中枢側(頭側)から足先へと改善が進み、しびれは足先が最後になる。
5) 以上の経過を示さない術後患者では、診断と手術法の再検討が必要である。私は術後1週間までに手術が適切であったかの判断を下し、再手術の必要性を判断することにしている。術後、2週間過ぎても術前の症状が基本的に持続する患者では診断か手術のいずれかに問題があるので再検討が必要である。
6) 術後の経過で特に注意を払って欲しいのは、下肢の症状の改善が順調に進んでいるかである。下肢の症状こそが神経そのものの症状と考えられるからである。
腰痛・坐骨神経痛で悩むより多くの方に読んでいただきたいと
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