最近、L5/S1の椎間孔狭窄が進み、L5神経根障害が高度になってから私の手術を受けられた患者が、本人の満足できるレベルにまで改善しなかったことに不満を露わにして、こんなことなら手術を受けるのではなかったと吐き捨てた。手術前は良くなると言ったではないか、これでは良くなったとは言えないというのが言い分です。
私はこの患者の感情露わな姿に接しながら、なんと報われない手術をやったものだと自嘲しました。この患者は、術前には足関節の背屈力が強く低下しており、L5神経根領域の知覚障害も進んでいました。手術をしなければ下垂足といって足先がだらーんと下がってしまい、歩くと足先が床に引っかかり歩きにくくなる一歩手前の状態でした。このような患者に神経機能が元通りに戻りますとは言うはずもないし、言ってはいないのです。しかし、本人はそう理解、いやそう信じたかったのだろうと思います。患者心理として無理はないと理解はできるのです。術後は足関節の背屈力は一定の改善を示し、下肢の痛みも全体としては、その範囲は狭くなり、軽減しているのですが、本人は術前の正確な障害状態を覚えていないのです。私は術前に人体図にその時の痛みやしびれの部位と範囲を色分けして患者本人に塗ってもらいます。定期的チェックする際に人体図を書いてもらうのですが、その図の上では明らかに痛みやしびれの範囲はL5神経根領域に狭くなってきているのです。それを見せても、「そうでした」とはなりませんでした。
患者は足に痛みを強く感じるため、その他の改善した部分は全く認めようとしません。実は、このような患者は希ではありません。つまり、良くなった部分は当たり前のごとく受けとめ、後に残った症状に不満を言い、こだわり続けるのです。まるで、良くならないのはお前の責任であるかのように。
私は改めてこの患者に次のように説明しました。「貴方の神経障害は回復しきれないところまで進んでいたので、椎間孔を広げ、神経根の圧迫を取り除いても、神経機能の改善が充分なものにならなかったのです。私ら外科医にできることは神経根の圧迫状態を解消し、神経根の障害が進むことを防止することと神経根の回復力を引き出してあげることで、神経そのものを治すことができるわけではないのです。私らは魔法使いではないのです。
貴方は手術を受けられた時点で既に後遺症として残る症状が決まっていたのです。それを事前に予測する手段がないのです。だからこそ、良くなる回復に期待をかけて、最善を尽くすほかないのです」。
この患者は納得していない様子でした。薬も飲むつもりはないと拒否しました。そして、帰り際に「他の医師はゴルフができるようになる」と言ったのにと最後に捨て台詞を残して、外来をでていきました。
実は、手術をすれば、治って当たり前と思い込んでいる患者がいます。そのような患者は
常に残った問題に不平不満を言い続けます。そのために、なかなか手術をしない[慎重な]外科医がでてくるのではないでしょうか。
脊髄や神経は障害が進むと、後遺症が残るのは当然と一般の理解が進むことが必要です。そうなれば、過剰な期待をもち、医師に不当な物言いをする患者が減るのではと期待するのですが、皆が理性的に問題を処理できるわけでもなく、無理なことであろうと諦める気持ちも起こるのです。しかし、私ら外科医は治療の最後の砦として瀕死の腰椎患者に手をさしのべなくてはならない立場、宿命にあると受けとめているのです。
腰痛・坐骨神経痛で悩むより多くの方に読んでいただきたいと
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