腰椎椎間板ヘルニアの症状の内、患者にとって最もつらいのは臀部から下肢の激痛です。この痛みは坐骨神経痛と大腿神経痛に分けられます。それぞれの特徴については、以前にブログで説明しましたのでご覧下さい。ここでは簡単な説明にとどめます。坐骨神経痛には腰椎5番から仙椎1番の神経根が関係し、大腿神経痛には腰椎2番から4番の神経根が関係します。腰椎椎間板ヘルニアは下位腰椎、すなわちL4/5やL5/S1に好発します。これらのレベルでは腰椎5番の神経根やS1神経根がそれぞれ障害されるため、大腿神経痛よりも坐骨神経痛の方が数の上では圧倒的に多く発生することになります。そのため、一般に腰椎椎間板ヘルニア=坐骨神経痛と理解されています。
それでは、椎間板ヘルニアではどのようにして激痛が生じるのかを説明します。 椎間板ヘルニアの最初の症状はぎっくり腰と呼ばれる急性腰痛です。これは髄核が線維輪という靱帯を特定の部位で破った時に生じる痛みです。腰に異変を感じても直ぐに痛みが生じるわけではなく、痛みは半日以上過ぎてから本格化します。この腰痛は靱帯由来の痛みで、靱帯周辺の炎症が痛みの発生に関係しています。そのため、炎症が治まると腰痛は消失していきます。通常、腰痛は1~2週間で消失します。
椎間板が原因で起こるぎっくり腰は靱帯性の痛みですから、臀部や大腿部に痛みが起こることはありません。ところが、靭帯の破れが大きく、髄核が靱帯外にはみ出し、近くを走行する神経根を圧迫・刺激すると、半日過ぎた頃から臀部や大腿部に激痛が起こります。このように半日過ぎた頃から激痛になるのも神経根周囲に炎症が発現するためです。このような臀部や下肢の痛みに先駆けて、ぎっくり腰を経験する場合が多いですが、これを経験することなく、最初から臀部・下肢の激痛になる方もおられます。
次に神経根が関係する根性痛について説明します。 神経根は脊柱管の外側や椎間孔周辺を走行するので、ヘルニアがこれらの部位で神経根を圧迫・刺激すると臀部や大腿部に激痛が発生します。このような激痛を起こすヘルニアのタイプは、後外側型ヘルニアと外側型ヘルニア、さらに超外側型ヘルニアです。これらのヘルニアで激痛になるのは、脊柱管外側部や椎間孔周囲はもともと神経根周囲のスペースが狭いため、ヘルニアが小さくても神経根への圧迫影響が強くなるために激痛になるのです。
一方、中心型ヘルニアと呼ばれる脊柱管中心部のヘルニアは通常は神経根を圧迫せず、馬尾を内部に収めている硬膜管を圧迫します。馬尾は硬膜管の中では、脳脊髄液という液体の中に浮いていますので、余程ヘルニアが大きくなければ、脊柱管中心部のヘルニアが馬尾を圧迫して症状を出すことはありません。もし、ヘルニアが大きくて馬尾を強く圧迫するなら、両側のお尻や大腿・下腿後部のしびれもそうですが、会陰部のしびれと共に排尿障害が発現することがあります。排尿障害はヘルニア症状の中で最も重篤な症状であり、早急に手術を行うことが必要です。なぜならば、馬尾障害による排尿障害やしびれなどの症状が生涯、後遺症として残るからです。
ここまでをまとめると、ヘルニアによる痛みは靱帯性の腰痛と神経根圧迫・刺激による根性痛に分けられます。いずれの痛みの発生にも炎症が強く関与します。
次にヘルニアによる痛みなどの症状を起こしやすくしたり増強したりする要因について説明します。ヘルニアの発生部位と併せて痛みに関係する重要な要因は脊柱管や椎間孔の構造です。生まれつきや加齢による腰椎症性変化によって脊柱管や椎間孔が狭い患者では、ヘルニアによる神経根の圧迫はより強くなるため、痛みの外、しびれや筋力低下などの神経根症状が強くなります。
さらに、ヘルニアの発生した腰椎間にすべり症があったり、病的に動く状態、すなわち腰椎不安定性があったりすると、身体の動きや動作によって神経根の刺激が強くなるため、痛みが増強し、長引く傾向があります。このような腰椎の状態を持ったヘルニア患者では、痛みの強い時期には、腰部の安静が特に必要です。
腰椎椎間板ヘルニアによる根性痛の発生や程度に関係する要因をまとめると、(
(1)ヘルニアの発生部位(後外側型、外側型、超外側型)と(2)脊柱管や椎間孔の構造(狭窄の有無)、さらに(3)腰椎間の不安定性の有無などが関係します。(4)痛みの強さには炎症が強く関与します。従って、これらの要因を適切に分析・評価し、時間的経過における症状の推移を見極めて、治療方針を決めることが重要です。
薬物治療やブロック治療をしていても痛みが軽減していかないヘルニアでは、手術治療も検討することが必要です。ただし、外側型ヘルニアや超外側型ヘルニア、さらに腰椎症を伴うヘルニアでは診断と手術は難しくなることを知っておくことが必要です。
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