県外からブログを通じて手術を受けに来られる患者さんが増えています。地元で適切な治療を受けられれば、それが最も望ましいと思いますが、なかなかそうはならない現実に悩まれている患者さんが全国的には実に多いのだろうと推測されます。
最近、県外の大学病院で治療を受けていた50代の女性が受診されました。典型的な腰部脊柱管狭窄症による歩行障害があり、杖歩行の状態でした。足関節の背屈力の低下もあり、神経機能障害は進んでいました。なぜ、このような状態になっても、手術治療が行われなかったのかは不明ですが、精神的な要因が強いと判断されていた節があります。
私は、改善しない痛みと歩行障害によって彼女の精神が病んだとしても、精神的な問題が先行していたのではないと判断しました。なぜなら、彼女の訴えは脊柱管狭窄症の進行によるものと何ら矛盾がなかったからです。狭窄症として不合理と思われる訴えはありませんでした。
私は、手術によって杖のない歩行が可能になり、足のしびれも麻痺も改善が期待できると判断し、手術を行うことになりました。
17mmの皮膚切開によるMD法でL4/5の両側のL5神経根と馬尾の除圧を行いました。L5神経根は椎間板と上関節突起との間で強く圧迫され、癒着も認めました。長い経過を疑わせる手術所見でした。
麻酔が覚めると、術前は下肢をのばしたまま仰臥位で寝ていることはできませんでしたが、術後は直ぐにその姿勢を保って寝ていることが出来るようなりました。現在、歩行訓練を開始していますが、足の麻痺は良好な回復を示しています。
間もなく、杖なしで歩いて帰ることができると期待されます。実は、この患者さんは上肢の痛みやしびれにも悩まされていましたが、これは頚椎からの症状とされていたそうです。しかし、彼女の上肢の症状の原因は胸郭出口症候群によるものと判明しました。これに対しても、当院で後日手術を予定しています。
いつも繰り返すことですが、患者の症状の正確な診断がなされていない、さらに手術が必要な状態まで生活の質が失われている患者に対しても手術が行われていない。あるいは、手術は不要と判断されている。患者は生活の破綻や痛みに悩まされる中で精神を病んでいく。そして、医師によて病んだ精神が患者の症状・訴えの原因であるとすり替えられてしまう。
このように患者にとっては何を信じて良いのか解らないといった曖昧模糊とした状態がまだまだ腰椎変性疾患にはあるのです。また、頚椎疾患と胸郭出口症候群や手根管症候群や肘部管症候群などの正確な鑑別診断が必ずしも行われていないという現状もあります。
このような問題を解消するためには、脊椎を知り、神経を知る脊椎外科医が増えていくことが必要です。
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