MRIなどの検査で、異常なく、神経ブロックなどの治療を受けていたが、症状が改善しないため、担当医からの紹介状を持参して、県外から私の外来を受診された60代の男性の診断と手術治療について紹介し、腰椎変性疾患には、いかに診断の難しいケースがあるかを知っていただきたいと思います。
患者さんは平成25年の春から、左臀部~大腿にかけての痛みが起こりました。徐々に左下腿外側にも痛みしびれが出現するようになりました。痛みは歩く時に出現し、坐位では軽減する。間欠性跛行も認めました。
神経機能検査では、左足関節の筋力低下は認めませんでしたが、左下腿外側部と足背に触覚低下を認めました。痛覚は正常でした。
症状と神経学的所見からは、左L5神経根症と診断しました。
MRI,CT検査から、患者さんの左L5神経根症の原因はL5/S1の左側の椎間孔狭窄症と診断しました。
MD法による椎間孔拡大術を行いましたが、左L5神経根は椎間孔内で上関節突起と膨隆した椎間板、
肥厚した黄色靭帯、椎弓根間で強く絞扼されていました。
手術では、上関節突起を削除し、黄色靭帯を切除し、硬化膨隆した椎間板を摘出し、L5神経根を除圧しました。
手術時間は1時間、出血量は10mlでした。
退院時には、術前の左臀部~大腿部痛、左下腿外側のしびれは消失しており、間欠性跛行も認めなくなっていました。
次に、この患者さんの術前術後画像を供覧します。この画像から、椎間孔狭窄症を診断できる医師は極めて少ないと思います。私は、この患者さんを紹介していただいた医師に敬意を表したい気持ちです。このように患者さんのことを考え、他の医師の意見を聞かれることは大変勇気のある行動であり、そのような医師が増えて欲しいと願います。
術前MRI所見:矢状断像では異常所見を認めません。

L4/5の椎間板レベルでは異常所見を認めません。

L5/S1の両側の椎間孔を示しますが、この画像から椎間孔狭窄を診断することは困難です。

L5/S1の椎間板レベルには異常所見は認めません。

術前MRI冠状断像では、左L5/S1の椎間孔内で神経根が腫れている所見が疑われます。

術前CT所見:椎間孔狭窄の診断は困難です。

術後CT所見:左で椎間孔拡大術が行われています。赤矢印

術後MRI所見:赤矢印は椎間孔拡大を示し、青矢印の先には除圧されたL5神経根が認められます。

術前CT:L5/Sの椎間孔内に上関節突起が入り込んでいる。

術後CT:椎間孔内の上関節突起が削除されている

コメント:この患者さんの椎間孔狭窄症の診断は300例以上の椎間孔周辺部病変の手術経験を持つ私にも困難でした。
診断のポイントは症状は明らかにL5神経根症であること、MRIでは、L5神経根症の原因になりやすいL4/5には有意な狭窄病変がないこと、椎間孔外にも狭窄病変はないこと、そして椎間孔内に上関節突起が入りこみ、L5神経根が腫大(はれている)している所見がみられたことです。下肢の痛みが腰椎の姿勢や動きに関係していることは、L5神経根に圧迫性病変があることを強く疑わせました。
これら症状、MRI所見、CT所見などを総合して椎間孔狭窄症と診断しました。そして、手術によって診断が正しかったことが証明されました。
このようなケースは、通常は原因が見逃され、あるいは診断が困難であり、適切な治療を受けられないでいる患者さんが多いと思われます。医師の診断力は腰椎変性疾患においては、何よりも重要と言って過言ではありません。
腰痛・坐骨神経痛で悩むより多くの方に読んでいただきたいと
思っております。1日1クリックずつ応援お願いいたします。

- 関連記事
-
trackbackURL:https://spine.drshujisato.com/tb.php/350-c2770a62