複数の病院で、過去に3回のヘルニア手術を受け、4回目の再発があり、受診された40代女性を紹介します。
この方はL5/S1に毎年ヘルニアを再発し、4度目になる今回は担当医から、癒着の起こり易い体質なのでもう手術はしない方が良いと話されたために私を受診されまいた。トラムセットなどを服用していましたが、痛みのコントロールはできていなかったようです。
症状は、腰痛と左臀部、大腿外側、下腿外側の痛みとしびれであり、足背にも痺れがありました。左足は下垂傾向のため、歩行困難な状態でした。
神経学的には、 左足関節と母趾の強い背屈力低下あり
左の下腿外側・足背に知覚障害あり
腰椎MRI所見:
矢状断像(左椎間孔レベル):椎間孔狭窄を認める

横断像(L5/S1レベル:過去に手術を受けた部位):左S1神経根が描出されている(矢印先)

冠状断像:L5/S1の左椎間孔内の神経根の絞扼が疑われる

今回の症状は、S1神経根症ではなく、L5神経根症です。MRIではL5/S1にヘルニアの再発を認めません。従って、症状と神経学的所見、さらにMRI、CT(後で提示します)所見から、左L5/S1の椎間孔狭窄症が疑われました。
痛みが持続し、知覚障害、筋力低下が進んでいることから、手術を行うことを決定しました。
手術は、MD法によりL5/S1の外側アプローチで椎間孔を拡大し、L5神経根の除圧を行いました。手術所見は、過去のヘルニア再発や手術などの影響によると思われる瘢痕組織が椎間孔内を埋めており、L5神経根は瘢痕組織内に埋没していました。瘢痕組織を神経根から剥離・摘出することは神経根障害を起こすため、椎間孔を拡大して、瘢痕組織ごと
L5神経根を除圧しました。L5神経根が瘢痕組織ごと動かせる状態まで除圧しました。
手術時間は丁度1時間、出血量は10mlでした。
手術所見

disc:椎間板、scar tissue:瘢痕組織、sacral ala:仙骨翼、pedicle:椎弓根
術後MRI:L5/S1の左の椎間孔外からアプローチして、椎間孔の拡大と仙骨翼の部分削除を行い、L5神経根の除圧がなされています。



術前後のCTを提示します
術前CT横断:過去の手術で椎間関節の内側部が部分削除されています

術前CT矢状断:L5/S1の左の椎間孔内に上関節突起が入り込んでいます(矢印)

術後CT横断:L5/S1の外側から椎間関節の外側部と仙骨翼が削除されています。

術後CT冠状断:椎間孔内に入り込んでいた上関節突起が削除され、椎間孔が拡大されています

コメント:この患者さんは、L5/S1に3回のヘルニアを繰り返し、4回目はヘルニアの再発ではなく、瘢痕組織による椎間孔狭窄が原因でした。そのため、L5神経根の障害が発生しました。
この場合、瘢痕組織と神経根が一塊になっていますので、瘢痕組織ごと神経根を除圧することが必用になります。瘢痕組織を取ることにこだわると、神経根を傷めることになり、術後神経根障害が悪化するでしょう。神経根を除圧するための
苦肉の策と言えます。
この患者さんは、麻痺の改善が得られ、腰痛や下肢の痛みは軽減しております。歩行状態も術前よりは著しく改善しています。しかし、神経根障害が進んでいたために、神経障害性の疼痛が下肢にあり、トラムセットを服用してもらっています。
術前にもトラムセットを服用されていましたが、効果は余り無かったようです。神経根除圧により、神経性障害性疼痛はコントロールがし易くなりました。
私は、再発ヘルニアを含め、このような瘢痕性椎間孔狭窄の患者さんでも、神経根の除圧手術を優先します。固定術を行うことは例外的なものです。私自身が経験した4度目のヘルニア再発の患者さんもMD法で手術したことを以前にも触れました。できるだけ、固定術は避けるべきが私の方針です。
この患者さんが残した教訓は、ヘルニアの再発を繰り返す中で、瘢痕組織により椎間孔狭窄が発生することがあるということです。このようなケースもあることを念頭に、決して諦めてはだめだということを強調したいと思います。
腰痛・坐骨神経痛で悩むより多くの方に読んでいただきたいと
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