闘病中にありながら、同じ病気に苦しむ方々へ励ましの言葉を頂きありがとうございます。
外科医の手は、患者さんを苦痛のどん底からすくい上げる神の手にもなれば、苦痛のどん底に落とし込む
悪魔の手にもなります。メスを握る外科医はこのことを決して忘れてはならないと肝に銘じています。
皆さんが希望に満ちた人生に戻れるようお手伝いできれば私ども外科医は本望です。
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FROM SHUJI SATO
久しぶりにブログ記事を更新します。
新しい年になって、早1ヵ月が過ぎました。
この間、外来、手術と多くの脊椎疾患の患者さんとの出会いがありました。
患者さんの目立った傾向は、後期高齢の患者さんが増えていることです。
さらに、再発手術を求めて受診される患者さんも確実に増えています。
多くの方は、私の拙書「腰椎手術はこわくない」をご覧になっての受診です。
この本を世に出したのは、患者さん自身が腰椎変性疾患に関する正しい知識を
もって適切に判断することを手助けしたいとの思いからです。徐々にその効果が出てきたように感じています。嬉しいことです。
さて今回は、私が重要と考える「手術のタイミングの大切さ」について書きました。なぜなら、手術のタイミングは患者さんの予後の重要な決定因子だからです。もちろん、診断と手術が適切であるとの前提での話ですが。「手術のタイミングの大切さ」については、このブログで何度も強調してきましたし、私の本でも詳しく記述しました。
手術のタイミングがなぜ遅れるのか。その主因は「医師が手術を勧めない」ことにあります。勧めないどころか「手術は止めた方が良い」と制する医師さえ少なくありません。もちろん、それぞれに理由があってのことですが。しかし、これでは患者さんは効果がないと感じていても、医師が勧めるのだから、そのうちに良くなるのかもと、保存治療から抜け出だせません。これとは逆もあります。医師が手術を勧めても、患者さんが手術に踏み切れない場合です。これは腰椎手術に対する世の中の信用度が低いことに多くは起因します。手術を受けても良くならない、却って悪くなったという患者さんがまだまだ多い状況をみるなら、これも無理のないことかも知れません。
こういった状況の中で、手術のタイミングは遅れていきます。その結果起こることは神経障害です。神経障害性疼痛という痛みがあります。これは神経が強く障害されたために起こる激痛であり、患者さんの残る人生は辛いものになります。
これを防ぐ方法はないものか。我々が現在手にする唯一の方法は、神経障害が進む前に、その原因である椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、すべり症などを手術によって根本的に直すことです。こうすれば神経障害による悲惨な痛みで苦しみ続ける患者さんの発生を防止できるはずです。
私が手術してきた患者さんの術後の明暗は、まさにこの神経障害の有無、その程度に関係していました。神経障害が進んでしまってからでは、いくら納得できる手術を行えたとしても、患者さんには神経障害による後遺症が残るのです。この経験から、医師には「手術のタイミングを適切に判断する重要な責任がある」と私は考えるようになりました。
治療という名目のもと、長く保存治療を行い、「回復し得ない神経障害」へと進めてしまうことは医師として何としても避けなければなりません。患者さんの良くなる機会を失わせてしまうことになるからです。
いずれそう遠くない時期に、腰椎変性疾患による神経障害性疼痛は医師に回避義務があるとの認識が示されることになろうと私は考えています。医師が適切に手術のタイミングを判断し、医師と患者との間に信頼関係が築かれていくなら、神経障害性疼痛の発生は確実に減っていくでしょう。それを期待します。