5)ヘルニアの重症度とは?
ヘルニア重症度の評価は何をもって行うべきか。あくまでも私見ですが、私はヘルニアの大きさではなく、「痛みの程度」と「神経障害の程度」から総合的に行うべきと考えています。
腰痛や坐骨神経痛、鼠径部付近の痛みなどは、主観的なものですので、それらの程度を他と比較することに余り意味はありません。なぜなら、痛みに弱い患者の方がじっと痛みに耐える患者と較べて、より重症との印象を与えるからです。しかし、患者がどの程度の痛みとして自覚しているのか、さらに術前後で痛みの程度はどう変化したのかを知る手段として、広くVASが用いられており、私も重宝しています。
ヘルニアによる激痛は拷問のように容赦なく患者を苦しめます。従って、強い痛みは患者側に立てば最も重症感の強い症状になります。なぜなら、激痛は患者の意識の中で足のしびれや麻痺、排尿障害などを凌駕する肉体的苦痛だからです。
一方、神経障害は下肢の痛みやしびれ、知覚障害、筋力低下(麻痺)や排尿・排便障害などを起こします。ヘルニアによる神経障害の症状は、障害された神経根や馬尾の支配領域に発現します。例えばL5神経根であれば、下腿外側から足背・足底(母趾側)に知覚障害としての痛み・しびれが発現し、さらに母趾や足関節の背屈力低下が起こります。さらに自律神経障害として足の冷感や浮腫、色調変化なども起こることがあります。これら神経障害の程度は患者個々に様々であり、厳密に言うなら、誰一人として同じではないと言って良いでしょう。
私がへルニアの重症度を問題にする最大の理由は、後遺障害と関係するからに外なりません。神経障害は一旦進行すると後戻りがきかなくなります。これを「神経障害の非可逆性」と呼びます。重症度の高い患者ほど、短期間で神経障害は非可逆的になります。その結果、神経障害性疼痛や下垂足などの運動機能障害、排尿排便障害などが後遺することになります。ヘルニアによる神経後遺症は神経障害が可逆的な時期(神経機能障害が完全に回復するgolden stage)に手術を行うことで防止できるはずです。私はこの考えに基づいて治療することが重要と考えてきました。これはヘルニアの重症度の評価抜きにはなしえないのです。重症度評価やgolden stageについては、手術治療編でも取り上げる予定です。
次回は、(6)激痛を起こす椎間板ヘルニアの特徴、を予定しています。
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