(6)激痛を起こす椎間板ヘルニアの特徴
ヘルニアによる痛みは腰であれ下肢であれ、本来痛みのない部位に起こる痛みですので、患者にとっては、それぞれの程度において辛いものになることは言うまでもありません。ここで言う激痛とは、VASで表すところの10か、それに近い痛みを指します。この場合、患者は通常、ベッド上で身動きできない痛みに顔を歪め苦しみます。排泄もベッド上で介助を受けて済まさざるを得なく、患者にとっては、まさに生き地獄です。この筆舌に尽くしがたい辛い、絶望的な痛みが毎日、終日続くわけですから、患者は精も根も尽き果てて、闘病への気力さえ失せてしまいます。「この痛みが治らないなら、死んだほうがましだ。」
患者の口をつく、この絶望的な呻き声を私は何度も耳にしてきました。椎間板ヘルニアが患者にもたらす激痛とは、このように悲惨なものであることを先ず知ってもらったうえで、次にこのような激痛を引き起こす椎間板ヘルニアの特徴について説明します。
私の経験から、激痛を起こす代表格は外側型と超外側型(最外側型と言うこともあります)ヘルニアです。外側型とは椎間孔内に発生するヘルニアであり、超外側型とは椎間孔外に生じるヘルニアです。これらの部位のヘルニアがなぜ激痛を来すのか?
その理由は、外側型では椎間孔という狭い骨性構造の中で神経根がヘルニアによって強く圧迫されるためであり、また超外側型では椎間孔外に存在する後根神経節と呼ばれる痛みに非常に敏感な部位がヘルニアによって直接圧迫刺激されるためです。勿論、これらの部位のへルニアがすべて激痛というわけではありませんが、激痛になる可能性が高いと理解しておくことが重要です。さらに痛みが強い他、下肢のしびれや感覚障害、運動麻痺も進みやすいので注意が必要です。しかし、ここで一つ深刻な問題があります。それはこれら重症化しやすいヘルニアの診断が必ずしも適切に行われていない現状があることです。原因不明とされてしまう場合も少なくありません。これら外側型と超外側型を含むヘルニアの診断法については、後日、診断編で説明する予定です。
一方、脊柱管内で中心型ヘルニアによって馬尾が障害される場合には、通常、神経根で見られるような激痛になることはなく、びりびり、ぴりぴりなどの不快な感覚障害になります。また、脊柱管内の後外側型ヘルニアで神経根が直接圧迫刺激される場合には、外側型で見られるような神経根性の激痛になります。特に神経根を直撃するヘルニアでは痛みが強いうえに下肢の感覚障害や麻痺も起こりやすいことを理解しておくことが必要です。
次回は(7)ヘルニアによる痛みの経時的な変化、について説明します。
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