(8)椎間板ヘルニアによる神経症状の進み方
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椎間板ヘルニアのみならず、腰椎変性疾患が神経障害を起こす際には、神経根単独、馬尾単独、さらに「神経根+馬尾」混合の基本的に三つの型があります。各型によって神経症状の現れ方と、進み方は異なります。ヘルニアが好発するL4/5を例に説明します。
(a)神経根単独の症状の現れ方と進み方
L4/5の脊柱管内で障害される神経根はL5神経根であり、ヘルニアのタイプとしては後外側型が該当します。ヘルニアによるL5神経根症状は痛みが強いのが特徴であり、始めは臀部、次いで大腿(外側・後部)、下腿(外側・後部)、そして足(背・底)の順に進むのが一般的です。
ヘルニア初期の炎症期には、腰痛や坐骨神経痛が目立ち、炎症消退期になると痛みは下腿外側部や足背・足底に強くなります。このように神経根障害による症状は、慢性期に至ると神経根の支配領域に強く表れます。言い換えるなら、神経根の支配領域に強い痛みやしびれ、さらに支配筋に筋力低下が起こっているなら、ある程度の神経根障害が起こっていると理解すべきです。だからといって直ぐに手術が必要というわけではありません。なぜなら、先にも説明したようにヘルニアは自然消失することが多いからです。神経根障害が軽い場合には、ヘルニアの消失によって最終的に神経症状は回復します。問題なのは、神経根障害の進み方が早い場合です。このような場合はヘルニアの消失を待つ余裕はないので、早期の手術が必要になります。ところが実際の臨床では、手術のタイミングを計る客観的な基準がないので混乱が生じています。ここでは外科医の経験的な判断が生きると言って良いでしょう
(b)馬尾症状の現れ方と進み方
脊柱管狭窄症では純粋な馬尾症候を呈する患者が多いですが、椎間板ヘルニアでは稀と言ってよいでしょう。なぜなら、馬尾症候を出すほどのヘルニアは通常かなり大きな、巨大ヘルニアと呼ばれるヘルニアであることが多く、馬尾のみならず神経根も同時に障害されるからです。つまり、椎間板ヘルニアでは「神経根+馬尾」症候を呈する患者が多いのです。馬尾症候は文字通り、脊柱管の硬膜内で馬尾がヘルニアによって圧迫・絞扼されて発現します。通常はヘルニア高位レベル以下の両側性の神経症候となり、中心部まで障害されると排尿・排便障害が発現します。例えばL4/5では、L5神経根と馬尾が両側で障害され、(a)のL5神経根症状と併せて、両側の臀部から大腿・下腿後部、足背足底に至るびりびりしたしびれ感が発現します。この場合のしびれは足底から上行し、会陰部に至りますが、巨大ヘルニアでは急速に殆ど同時に馬尾全体が障害されます。このタイプのヘルニアでは、自然治癒を待つ余裕がないので通常は早期手術、特に膀胱直腸障害が発現した場合には緊急手術としての対応が必要になります。
次回は、(9)椎間板へルニアによる自律神経症状とは?について説明します。
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