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頚椎ヘルニアの手術治療: これからはヘルニアに合わせた仕立屋手術の時代

.16 2011 頚椎椎間板ヘルニア comment(0) trackback(1)
 今回は私の本業である手術治療について説明しましょう。その前に、椎間板ヘルニアが腰の場合と同様に、脊柱管内のどこにどの程度に出ているかが手術を計画する医師には重要な情報になります。その情報を最も多く提供するのがMRIであることは腰の場合と同じです。勿論、頚椎レントゲン撮影もCTも補助的情報を提供する大事な検査です。MRIを取ったのにCTまで何故必要なのか?と外来の看護師に質問する患者がいます。両方の検査が必要な理由は、ヘルニアに石灰化がないか、靱帯に骨化がないか、頚椎症による椎間孔狭窄がないか、などを知ることです。これらがある場合には、手術のやり方を工夫する必要があるからです。診断するだけなら、MRIだけでもいいかも知れませんが、手術をするとなると病気の情報を十分に集めて望むことは、孫子の兵法ではないですが「彼を知り、己を知らば」ということで、手術も戦と同じであると言えます。さて、ヘルニアの出方にはおおよそ3つの場合があります。一つは、ヘルニアが脊柱管の真ん中あたりに出て脊髄を圧迫する場合(これをAの場合とします)、二つ目はヘルニアが脊柱管の外側に出て脊髄とそこから分かれる神経根の両方を圧迫する場合(これをBの場合とします)、そして、三つ目はヘルニアが椎間孔といって神経根が脊柱管の中から外に出て行く骨のトンネルの中に出る場合(これをCの場合とします)。これらヘルニアの出方によって症状は変わります。例えば、Aの場合には脊髄の症状である手指や上肢のしびれ・使いにくさが症状の中心となり、痛みは脊髄性の不快な痛み、物に触れてもびりびり痛いという特徴ある性質を示します。脊髄の圧迫が強くなると、下肢にもしびれが起こり、歩きにくさや排尿障害なども出ることがあります。Cの場合は神経根の症状となり、片方の頚部から肩、肩甲部、上腕などの激痛が主症状になり、患者にとってはまさに地獄のつらさとなります。手指のしびれや使いにくさも出ますが、Cの場合には下肢に症状がでることはありません。そして、Bの場合にはAとCの両方の症状がでることになります。また、ブラウン・セカール症候群と言って、ヘルニア側の上下肢の筋力低下と反対側の感覚障害を特徴とする変わった症状の出方を示す場合もあります。私達、脊椎外科医は患者の症状からこれらA~Cの診断を行います。さらに、MRIを行い、症状とヘルニアのMRI所見との一致性を検討するわけです。これらの知識を持って、次からの手術治療を読んでいただくと理解しやすいと思います。頚椎のヘルニア手術の歴史は長いわけですが、近代的治療法として確立され、現在においてもゴールドスタンダードな手術法は前方固定術です。これは首の前横に切開を加え、気管や食道を横によけて、頚椎の前面を出し、前方から椎間板を摘出して、その奥で脊柱管内へ脱出し、脊髄や神経根を圧迫している椎間板組織、すなわちヘルニアを摘出するのです。すると、手術した部位には椎間板がなくなりますから、以前は、骨盤の腸骨から小骨を採取して、それを椎間板代わりに移植したのです。ところが、骨盤の骨の採取した部位の痛みが強く、それが治るのに長い時間がかかったり、骨を取る際に大腿部に行く神経の障害が起こり、大腿部にしびれが残る患者もあったりで、その後、腸骨を取ることをやめ、その代わりに、人工骨であるセラミックを用いたり、チタンで出来たケージといわれる金属を空いた椎間板腔に入れるようになり、現在に至ったのです。前方固定術と言われるのは、摘出した椎間板の代わりに入れる物が何であれ、最終的な目的は椎間板を摘出した上下の骨同士が新しい骨が出来ることによって二つの骨が一つの骨に癒合することにあるのです。この上下二つの骨の癒合がうまく進むように色々な工夫も行われています。手術部に新しい骨ができて、骨同士が癒合するには2~3ヵ月くらいかかりますので、術後は頚部カラーを装着し、安静を保つことが必要なのです。この頚部カラーの装着が短く済むように工夫が色々行われています。現在、私は術後1週間にはカラーを外す手術方法を行っています。頚椎の椎間板ヘルニアに対する前方固定術は、脊椎外科医によって随分とやり方が異なるので、術前によく説明を受けられることが良いと思います。熟練した外科医なら、平均1時間30分位の手術時間ですが、手術時間の長い・短いよりも、安全で的確な手術を心がける外科医が安定した良い成績をだしていますので、外科医を選ぶ参考にしてください。術後、症状の改善の仕方については、ヘルニアが摘出され、脊髄・神経根の圧迫が完全にとれたなら、神経根の痛みは速やかに解消していきます。しかし、脊髄や神経根が障害されたための症状の改善には時間がかかることは、これも腰のヘルニアの場合と同様です。この前方固定術はヘルニアの出方にかかわらず、すなわちA,B,Cのいずれの場合でも適応となる全ヘルニア対応型の標準的手術法です。通常は、この手術が頚椎椎間板ヘルニアに対して行われています。次回は、私が行っている仕立屋手術、すなわち、患者さんのヘルニアの出方によっては頚椎の固定を必要としない最小侵襲のヘルニア摘出術、MD手術について説明します。





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2011.10.19 06:40