保存治療が無効にもかかわらず、手術による原因治療に踏み込めない理由として、手術でもっと悪くならないかの不安が医師にも患者にもあることだ。腰椎手術は、狭い脊柱管・椎間孔という骨の中を通る神経に対する手術である。骨や椎間板は神経を傷害する原因に過ぎない。この原因を取り除く時に、神経に悪い影響が及ぶ危険性は当然のことながらある。肉眼手術の限界・危険はここにある。もともと細い腰の神経が狭い骨の中に埋まった状態になっているのだから、その救出を肉眼で行うことに大きな危険を伴うことは医師なら容易に想像がつく。術前の説明で最悪、車椅子になるかもしれない。尿や便の垂れ流しになるかもしれない。そう説明するのもやむを得ない。しかし、そんな危険が潜む手術と説明を受けた時、手術に立ち向かえる人はどれだけいるであろうか。激痛に耐えられない患者はその激痛をとるためなら、いかなる代償でも払えるような気持ちに陥る。しかし、実際はそうではないのだが。幸い、医学の進歩はめざましい。人の目の限界を克服する手術顕微鏡が脳神経外科医の最強の武器として使えるようになって久しい。手術顕微鏡では、蟻がネズミくらいに見えるのだから、踏みつぶすことはあり得ない。切開20mm以下の安全な腰椎手術はこのような医学の進歩と外科医の研鑽の賜物である。2000例を超える腰椎手術で手術が原因で車椅子になった人を私は経験していない。
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